第207回「岡崎図書館事件を知るとIT立国など到底無理」

 岡崎市立中央図書館のホームページにアクセス多数を繰り返して、利用者が閲覧しにくくした偽計業務妨害容疑で38歳の会社社長が愛知県警に逮捕される事件が5月に起きました。20日間も拘留されて不起訴処分(嫌疑不十分)になったご本人の説明では、新着蔵書を自動チェックしてリスト化していただけです。図書館に電話で説明を求めた専門家がいて、その回答を知れば、日本にグーグルのような企業が育つわけがないと知れます。司法、マスコミを含めた社会全体のデジタルデバイドは深刻で、これじゃIT立国など到底無理です。

 ご本人がネット上への説明用に作ったウェブが「Librahack」です。逮捕翌日の朝刊記事を集めた「各社新聞記事の比較」には「図書館にサイバー攻撃」「図書館HPにアクセス3万3000回」とかが並んでいます。5月に記事を読んでとんでもない誤解の可能性を直感したのですが、被疑者側の反論が全く取材されておらず、一方的な捜査側の発表しかありませんでした。これを疑うようにマスメディアの記者は教育されているはずなのに、裏付けのためにサーバーの専門家に聞いてみることすらしなかったのでしょう。サイバー攻撃と言えるアクセス回数とは桁違いに少なすぎるのです。

 図書館側の新着図書表示が3カ月と長く、日付もないのでどれが本当の新着か分からない事情から、同図書館のヘビーユーザーだった社長さんがプログラムを作ったのでした。「1秒に1回」の設定アクセス頻度には必然性はなく、「1分に1回」でも十分に役だったでしょう。ところが、私も同図書館に手動でアクセスしてみてレスポンスに何十秒もかかる場合がありました。かなりの低能力システムだから、しばしば処理をため込んでダウンする始末になったようです。

 「サーバ管理者日誌」が「岡崎市立中央図書館に電話してみた」で貴重な情報を提供してくれています。図書館側が不調を管理会社に訴えると「外部からの攻撃が判明」「警察に被害届を提出」「警察からは2,3回、問合せ」「令状を持った捜査が行われたことは無」く「逮捕は報道で知った」そうです。

 国内の過剰アクセスで迷惑したら、まずプロバイダーを通じて警告を出すのがネットの常識です。聞いてくれないなら「特定IPアドレス遮断」の機能を使うものです。これを一切省いていきなり逮捕、しかも20日間も拘留する乱暴さには唖然としました。また、大衆に広くサービスを提供する図書館は思わぬ利用をする可能性を考慮しなければなりません。「サーバ管理者日誌」が指摘するように図書館利用情報は重要な個人情報として守らねばなりません。安易に警察に提供する情報ではありません。

 これで事件だと騒ぐ警察と、冤罪を疑おうとしないマスメディアで固められていては、グーグルのように新しい検索システムを試そうと収集ロボットをあちこちに走らせるベンチャーが存在したとして、とても無事では済まないでしょう。「SQLer 生島勘富 の日記」は「岡崎図書館事件について」でシステム動作について詰めた分析をしていて、追記の中で「私が同じことをしたとして、仮に落ちたとしても自分の所為だと認識したかどうか……。これで逮捕はとにかく怖いと思います」と記しています。