第254回「これから起きる深刻事を政府は想定していない」

 福島原発事故1カ月、初動や組織の問題点を振り返る企画をマスメディアがしていますが、収拾の見通しが見えないまま経過する今後の深刻さこそ知らせるべきでしょう。政府・東電が想定しないからメディアは伝えない――今回の事故で繰り返された危機的状況は1カ月を経ても不変です。卑近な例で説明すると2号機の高濃度汚染水流出が止まった翌日、「止まって良かったですね」と言う理髪店主に「止まった以上、どこかにどんどん溜まっていますよ」と返したら「それはまずい」と絶句していました。

 これからの事態を考える材料を、毎日新聞の《福島第1原発:「燃料棒除去の着手まで10年」東電顧問》が提供してくれています。1号機の試運転から携わり副社長・原子力本部長だった榎本聡明顧問ですから、東電・技術系の考えていることを代表して話せる立場です。

 「1〜3号機で続いている原子炉への注水作業について『水を注入するほかない。燃料がこれ以上溶解するのを食い止めたい』と説明。本来の冷却システム『残留熱除去系』の復旧には少なくとも1カ月かかるとの見通しを示した。予備の冷却システム増設も併せて進め、原子炉内が『冷温停止』と呼ばれる安定な状態になるまでには数カ月かかると述べた」

 「放射能漏れにつながっている汚染水の問題については、放射線量を放流できるレベルまで落とす浄化設備を今月中に着工。数カ月後をめどに、放射性物質を原子炉建屋内に閉じ込める対策も並行して進めると述べた。周辺自治体に対する避難・屋内退避指示の解除などは、この段階が検討開始の目安になるとみられる」。また「損傷した核燃料を取り出す専用装置開発から始める必要があり」「原子炉を冷却し、廃炉に不可欠な核燃料の取り出しに着手するまでに約10年かかる」

 当面「数カ月をめど」とする見通しは最も楽観的なものでしょう。格納容器が壊れていない1、3号機なら爆発などが無ければありえても、格納容器の下部が水素爆発で損傷している2号機は格納容器内に水がある限り高放射能汚染水の垂れ流しは終わりません。3つの原子炉に合わせて1日500トンの水を注入し続けていますから、数カ月で現在以上の汚染水を抱え込むことは必至です。2号機の破損部を修復するために格納容器の水を抜くには、内側にある原子炉圧力容器が健全であって冷却系を回復する必要があります。「福島原発2号機で原子炉圧力容器の底抜けたか」で想定した事態が起きているようなら絶望的です。

 2号機の状態は毎日、真水を注ぎ込んで溶融した核燃料から高放射性物質を洗い出しているのと同じです。その漏出箇所には人間は近寄れません。《放射能の大半、なお原子炉内に 漏出は1割以下か》が報じているようにまだ放出量は数%に止まりますが、2号機からは最悪の場合、何割もの放射能が環境に出ることも考えなければなりません。東電・技術系の考えている「楽観的見通し」が外れる可能性がある現在、何が起きてどう対処するか悲惨な場合の対応策も考えておかなければ国民への責任が果たせないし、日本の技術力への失望はさらに高まります。

 東電・保安院の考えている対応で十分かチェックするのが原子力安全委員会の仕事ですから日々の対応に右往左往するばかりでなく、専門家を各方面から臨時招集して長期見通しと対策を検討すべきです。

 【追補】NHKニュースは「冷却機能が復旧する見通しについて、経済産業省の原子力安全・保安院の西山英彦審議官は、10日午前の記者会見で『原子炉ごとにいくつかの発想があるが、今、こういう形でできるという方針をはっきり示す段階にはない。めどが立つのは数か月オーダーと思うが、はっきりしているわけではない』と述べました」と伝えました。