動かぬ再処理工場に年維持費1100億円:東京新聞 [BM時評]

 在京マスメディアが「311」以来、自分の頭で考える取材を自ら放棄している中で、権力中枢から一歩離れた東京新聞だけが真っ当な取材活動をしていると評価されています。「核燃料再処理工場 動かなくても年1100億円」も高く評価されてよいと思います。詰め方に多少の問題点を見ますが、国策事業の失敗をめぐりデータを出したがらない国や電力業界とのせめぎ合いを経験した立場からは立派な労作です。

 「使用済み核燃料の再利用に向け、試験が進む日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村)は、仮に稼働させなくても、維持費だけで年間千百億円もの費用がかかることが、政府の資料や日本原燃への取材で分かった」

 この再処理工場は当初の目標から既に15年も完成が遅れており、未だに完工の目処が立っていませせん。もちろん、再処理の実績もありません。それでも工場の点検や搬入された使用済み核燃料の管理(200億円)、工場の警備や放射線管理(200億円)、1500人の人件費(128億円)、福利厚生や再処理技術の研究費(172億円)、固定資産税や銀行への返済(400億円)と、巨額な年間維持費が必要と伝えています。

 これとは別に核燃料サイクル施設が青森にあるために、地元自治体が政府から92億円の交付金を得ているのです。核燃料サイクルのもうひとつの柱、高速増殖炉「もんじゅ」が年間で200億円の維持費を必要としている点はかなり知られるようになりましたが、六ケ所核燃料再処理工場についての報道は初めてです。こちらは5倍以上あり、ほとんどは電気料金から支払われています。世界的に見て割高な、国内の電気料金に隠されて見えなくなっていたのです。

 どうして15年も再処理工場完成が遅れているのか、それは第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」で明らかにしています。日本の国策原子力開発は「もんじゅ」といい開発監理の仕方に根本的な欠陥があるのです。福島原発事故で誰も責任を取らなかったように、失敗を隠蔽して事業延命を自己目的とする体質がビルトインされています。「原子力ムラ」の体質です。

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