第328回「違法ダウンロードが霞む音楽業界の末期症状」

 6月に私的違法ダウンロード刑罰化法案が闇討ち的に成立、10月から施行されました。このタイミングでマイボイスコムが「音楽ダウンロードの利用に関するアンケート調査(第5回)」を実施して探った動向は衝撃的です。音楽にお金を使わない、ダウンロードもしない傾向が一段と鮮明です。CD売り上げ減少を補うと期待された有料音楽配信の売上高も、つるべ落としの激減ぶり。消費者に買いたくさせる魅力的コンテンツを育てずに、刑罰の力に頼ろうとする音楽業界は末期症状露呈です。  「あなたは音楽CD・DVDの購入やレンタル、曲のダウンロードなど、音楽を聴くために1ヶ月あたりどの程度のお金を使っていますか」に対する回答が上のグラフです。全くお金を使わない層が2007年調査までは55%程度に止まっていたのに、2010年に62.5%、2012年は68.6%と拡大しました。2割前後いた5百円未満層が16.8%へ、11%くらいいた千円未満層が7.1%に細ってしまいました。千円から3千円という上得意層は2005年頃までの半分、5.4%です。  「あなたはここ1年以内で、音楽のダウンロードに1ヶ月あたりどの程度のお金を使っていますか」の質問に答えた上の集計グラフで、無料でもダウンロードしなくなっている傾向がはっきりします。1年以内にダウンロードしていない層が2010年の32.4%から2012年は43.9%まで増え、無料ダウンロード層が30.4%から24.2%に減りました。

 日本レコード協会の「有料音楽配信売上実績」から四半期ごとのデータを抜粋したのが下の一覧表です。  2010年から売上高が落ち始めた勢いはどんどん加速していて、2011年後半からは前年同期比8割ペースになり、今年の第2四半期は何と前年同期比71%です。前年比1割程度の減少で推移しているCDなど「オーディオレコード総生産金額」と比べて、尋常でない印象です。

 2010年はスマートフォンが脚光を浴びた年であり、いわゆるガラパゴス携帯からの移行が始まりました。スマートフォンに移る過程で従来の配信サービスが使えなくなりました。ユーチューブなどで視聴でき、無料音楽アプリも多数ある結果、売上高が落ち込みました。しかし、《2011年度「音楽メディアユーザー実態調査」報告書公表》に「スマートフォン所有者は音楽への関心が高く、音楽への支出額が多い。新品CD購入では約3割、有料音楽配信では6割弱を占める」とあるように、スマートフォン所有者は有望な音楽消費者なのです。有料音楽配信の落ち込みが異常なまでに進むのはチャーミングなコンテンツが足りないと考えざるを得ません。「AKB48」の人気が全盛になるほど音楽配信売上減が進んで見えるのは単なる偶然なのでしょうか。下の参照記事にあげた第127回「音楽産業は自滅の道を転がる」の業界体質に改善がありません。

 【過去の「音楽」参照記事】
2002年……第127回「音楽産業は自滅の道を転がる」
2005年……「アップル配信で音楽業界の目は醒めるか [ブログ時評31]」
2009年……第185回「音楽不況に追い打ち、ネット配信もダウン」