日経が伝えた原発の新安全基準原案は無理筋か [BM時評]

 日経新聞が9日朝刊で原子力規制委が原発に適用する新安全基準原案を伝えました。目玉は「原発が機能を失った場合に備え原子炉を冷やす施設の新設を求める」で、事故調報告不備が招いた無理な屋上屋の印象です。詳しくは11日に再開される新安全基準に関する検討チーム会合の資料を検討してから論じたいと思いますが、新たな課題になっているテロ対策も含めて、最終安全装置をもう1セット追加してしまえば、国民から納得してもらえると考えたように見えます。安全設備さえ造っておけば大丈夫とする従来の発想です。しかし、福島原発事故では現実に用意されていた最後の命綱設備が、色々な事情から働かなかったのです。

 日経の「原発に非常用冷却施設 新安全基準の原案判明 テロ対策も強化」に付いている新聞紙面の図を見ると、大津波の被害が及ばぬ高台に「非常用原子炉冷却施設」「非常用電源」「放射性物質フィルター付き排気施設」「放水銃」を新しく設けて、原子炉と接続しています。非常用ディーゼル電源の津波による喪失などで3原子炉に炉心溶融が起き、ベントのもたつきで原子炉格納容器に破壊の危機が発生、さらに水素爆発後には高放射線量になっている上空から危険を冒した冷却水投下――などの醜態をなぞって「対症療法」対策が並んでいます。

 本来ならばこのような大事故では原因の究明がしっかりなされ、それに基づいた対策として新たな安全基準が策定されるべきです。ところが、福島原発事故の出発点の段階で事故調見解が分かれました。政府事故調は大津波襲来からスタートとし、国会事故調はその前の大地震の時点から異常が始まったとしました。この差は厄介で、考えるべき対策も違ってきます。原子力規制委で原案を考えた事務局官僚が、それならば安全設備をそっくり上乗せしてしまえとしたのでしょう。残念なことに動いている原子炉はそれほど単純ではありません。危機に陥った状況によっては助っ人設備が引き継ぐのが困難な場合があり得ますし、少なくとも運転マニュアル全体を検証して書き換えなければなりません。

 本質的には「航空機の衝突やテロで原発が破壊され、通常の冷却装置が機能を失っても別の場所でシステムが働き、原子炉の暴走を止める仕組みづくり」が可能かどうか、大いに疑問があります。既存原発の設計思想と相容れないか、新設される配管や機能が干渉する恐れがあります。細部を詰めたら問題噴出でしょう。原発再稼働ありきの、とても安易な発想に見えます。

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