第362回「巨大地震予測報道に読み手のリテラシーが必要」

 政府の地震調査委が南海トラフ巨大地震の確率を30年で60〜70%としたのは衝撃的です。昨夏には中央防災会議が最大死者数32万人にも及ぶ大被害を想定したからですが、読み手は冷静になる必要があります。東日本大震災が発生したために「想定外」は避けたい思いが研究者にも強まっています。確率的に低い事象でも「起きない」との決めつけは避けるようになっています。こうなると報道の断片だけをツマミ食いして、繋ぎあわせてはいけません。  地震調査委の「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)概要資料」から引用した、この地域での地震歴史図です。1361年に起きた正平地震から後を主に検討しています。この年には東海地震と南海地震が時間差を置いて発生しました。図で立てに黒い棒が入っている地震は同時発生ではなく時間差があった地震です。斜体の数字は地震の間隔年数です。

 1361年以降は100から150年の間隔で地震が続いていて、1944、1946年の昭和地震は規模が小さかったので次の地震が早まる恐れがあるとみられています。30年以内に高確率で起きると考える根拠は、30年後が昭和地震から100年になるからです。一方、南海トラフの全域、東海から四国、日向灘までが連動した超巨大地震は1707年の宝永地震です。東日本大震災をも上回る規模で、これに匹敵する地震は2000年くらい前に起きた可能性が浮上していますから、頻発するものではありません。

 時事通信の《今後30年で60〜70%=南海トラフ巨大地震の確率−「切迫性高い」と政府調査委》が「従来は東海、東南海、南海のエリア別に評価してきたが、連動する可能性もあるため、南海トラフ沿いのどこかで巨大地震が起きる確率を公表した」「南海トラフ全域で地震が起きた場合、最大でM9.1と想定したが、過去に起きた証拠がなく、M9.1に限った確率は計算できなかった。ただ、大幅に低くなるという」と伝えた意味が、上の歴史図を前提にすると理解しやすくなります。当面はマグニチュード(M)8クラスの心配をし、超巨大地震も頭の隅には置いて欲しいのです。

 昨年8月の「南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等(第二次報告) 及び 被害想定(第一次報告)について」は被害想定が甚大で、強烈な印象を残したと思います。被災の中心地域が異なると被害規模が変わりますが、大枠では全壊と焼失の棟数が94万〜238万、死者が3万〜32万人と恐ろしい数字でした。しかし、「この『最大クラスの地震・津波』は、現在のデータの集積状況と研究レベルでは、その発生時期を予測することはできないが、その発生頻度は極めて低いものである」と明記されていた点を忘れてはいけません。

 原発のように大事故を起こしてしまうと復旧不能な施設は強力な予防策を施すべきです。しかし、市民生活のレベルでは実感できる範囲で防災策を積み上げていくしかありません。マグニチュードが「1」大きいとエネルギーは約32倍にもなります。M8級とM9級との差は非常に大きく、あまりにも巨大な被害を想定してしまうと、対策が放置される事態を恐れます。

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