第369回「再処理工場、新規制基準は設計やり直さす大鉄槌」

 核燃料サイクルの要、再処理工場について原子力規制委が2日に公表した新規制基準骨子案は事実上、設計のやり直しに等しいほど厳しい内容です。年内の完工など消し飛び、核燃料サイクルに実現大疑問の事態発生です。サイクルのもう一つの柱、高速増殖炉もんじゅは1万点の機器に点検漏れが見つかって5月末に事実上の運転禁止になり、6月下旬には新たに2300点も点検漏れが見つかる泥沼状態です。自公が政権に復帰してから核燃料サイクル推進姿勢が目立ちますが、技術的な基盤が崩壊していると指摘せざるを得ません。

 「使用済燃料再処理施設の新規制基準(重大事故対策)骨子(案)」で、新たに加わった項目として目立つのは「緊急時対策所」です。航空機落下などで発生した重大事故時に制御室を放棄した場合に、100メートルは離れた緊急時対策所が現地対策本部として機能するよう求められています。原発でも同様の施設が求められていますが、実際には数年の建設猶予が認められています。この点よりも中身の重大事故対応がはるかに深刻です。  原子力規制委の資料「使用済燃料再処理施設の規制基準について」(2013/4/15)にある再処理主要プロセス図を掲げます。新骨子案で再三再四触れられているのが「重大事故に至るおそれのある事故」で《設計基準事故を超える事故(B―DBA)であって放射性物質の気相への大量移行(液体状の放射性物質が容器、管内又はセル内において、エアロゾル、ガス状等の外部に放出されやすい形態になること)を起こす事故》です。上図で臨界の危険があちこちで指摘されていますが、ここには無い「冷却機能の喪失による蒸発乾固」事故などが強く心配されています。

 この結果、「B−DBAに的確かつ柔軟に対処できるよう、予め手順書を整備し、訓練を行うとともに人員確保等の必要な体制を整備すること」が求められました。「全ての交流電源及び恒設直流電源系統の喪失、安全系の機器、計測器類の多重故障が、単独で、同時に又は連鎖して発生すること等を想定し、限られた時間の中で施設の状態の把握や実施すべき重大事故対策について適切な判断を行う」手順を予め整備せよとの要求です。

 1997年を当初の完工予定にして設計され、遅れに遅れている六ケ所再処理工場にこのような高度な危機対応が出来るはずがありません。高レベル放射性廃液漏れを起こした弁が軽く触れれば動く状態にあった「フェールセーフ欠如」を描く『核燃再処理工場に安全思想の設計無し!! 』をお読みください。現時点では考えられないほど遅れた安全設計思想に立脚している弱みが歴然です。

 機器の機能喪失や故障が「単独で、同時に又は連鎖して発生」など六ケ所再処理工場の設計者には考えもしない事態でしょう。どう見ても単独故障にして発生しうる事象を解析し切って設計したようにはありません。多重故障となれば組み合わせを数え上げて、対策を考える膨大な作業になります。その上で現有施設が対応しきれるのか、事故手順書を書き上げねばなりません。対応できぬケースが続出でしょう。

 本来の再処理機能を実現できずにズルズルと完工延期を繰り返してきた再処理工場。古い設計のまま操業の安定性や安全性への疑念が膨らんでいる中で、規制当局から「大鉄槌」が下されたと敢えて申し上げます。新規制基準の施行は12月です。

 【参照】『核燃料サイクルは新安全規制で事実上の凍結へ』(2013/5/6)