第371回「食べられぬ心配だけで保護意識が無いウナギ報道」

 土用の丑の日が近づいてウナギ不足による高騰が話題になる中、メディア報道は食べられぬ心配をしても絶滅危惧種になったウナギを守る視点がありません。もう手遅れと言われながらも大規模禁漁なら可能性はあるはずです。マグロなども含め本格的な規制がないまま各種漁業資源を食べ尽くしつつある日本。これに対して海外では持続的漁業を目指して漁獲規制に成功した国があります。悪くすればニホンウナギ絶滅はあるかもしれぬものの、ウナギ保護を転換点にするくらいの見識をマスメディアに持って欲しいもの。幸か不幸か、関東河川のウナギが放射性セシウムで汚染されている今、禁漁の網を掛けるチャンスです。

 ニホンウナギは国内の河川に上がってくる稚魚シラスウナギを捕獲して養殖します。最盛期には250トンも採れたのに、2013年には5.6トンに激減しています。水産総合研究センターウナギ総合プロジェクトチームによる「ニホンウナギの資源状態について」からグラフを引用します。  50分の1にもなっては消費を満たせませんから、当初は中国・台湾から。さらにヨーロッパウナギ、アメリカウナギ、そして最近では東南アジアのウナギの稚魚まで輸入して養殖するようになりました。その輸入先のどこでも資源枯渇が心配され、ニホンの蒲焼のために食べ尽くされようとしているのです。平成24年水産白書も心配を表明していますが、「今後とも国民へのウナギの安定供給を確保することを目的として、水産庁では、関係機関と連携し、平成24(2012)年6月より、養殖業者向け経営対策、河川生息環境の改善、国内外の資源管理、調査・研究の強化等から成る総合的な対策(ウナギ緊急対策)を実施しています」と保護の観点は希薄です。

 三重大准教授の「勝川俊雄 公式サイト」で「ウナギの乱食にブレーキをかけられるのは誰か?」はノルウェーやニュージーランドなど漁業管理に成功した世界各国に学んでいます。メディアにも、ウナギに限らぬ漁業全体の再生に向けて、この視点を持っていただきたいと思います。

 《「行政や漁業者が主導で資源管理を始めた国は無い」ということだ。漁業者は魚を獲るのが仕事だし、現状でも生活が厳しいのに、漁獲規制など賛成するはずが無い(実は、漁獲規制がないから、生活が厳しいのだけど)。行政は、業界が反対していて、調整が難しいことを、自ら進んでやるはずが無い》《ノルウェーでも、ニュージーランドでも、環境保護団体が強い。彼らが非持続的な漁業の問題点を指摘した結果、乱獲に反対をする国民世論が高まり、漁獲規制が導入されたのである。選挙では、与党も野党も、漁業管理を公約にして、選挙を戦い、意欲のある政治家が中心となって、政治主導で資源管理を始めたのである》

 太平洋マグロの資源量が過去最低と伝えられて、大西洋に続いて国際的な漁獲規制が検討されそうです。しかし、日本には近畿大が先駆けたマグロ完全養殖の技術があり、大規模に稚魚を得るための大型陸上養殖施設が最近、長崎で稼働し始めました。第201回「マグロに続きウナギも完全養殖の国産技術」で紹介しているようにウナギも続いています。ウナギの場合、生まれたばかりの幼生に与える餌がなんとか分かった段階であり、マグロに比べ、まだまだ難関はありそうです。