第398回「中国政府も深刻大気汚染の底知れ無さに目覚める」

 1月に始まった重篤スモッグ騒ぎ、師走になって中国政府もやっと大気汚染の底知れ無さを自覚したよう。国営新華社が異例の深刻ぶりを配信しました。小手先対応が無力なほど汚染源は経済発展に組み込まれています。同時に中国の新車販売が好調で今年2千万台を超えるニュースが駆け巡りました。クルマが主要汚染源であることは明らかなのに「3500万台も視野に入れる」と業界関係者がコメントする能天気に呆れます。グラフをお見せしましょう。中国で前年末まで過去10年間の新車販売累計がどう推移したか集計しました。北京市は北京五輪での青空回復を引き合いに出して「今回も乗りきれる」と主張しますが、2008年当時と比較にならない数のクルマが国内にひしめいているのです。  2007年末まで10年間累計は4316万台でした。ところが、2012年末までの10年では1億1099万台にも上ります。2008年と2013年を比べたら2倍半以上の膨張です。クルマだけではありません。石炭消費もセメント生産も2012年に至って中国は世界の半分以上を占める規模になりました。どちらも10年で3倍になっているので5年前との比較なら2013年は2倍になっていると考えられます。北京五輪当時は市内工場の一時停止やクルマの半数を日替わりで使用禁止にして五輪本番での青空を得たのですが、現在は2倍を超える汚染源集積ですから半分を止められたとしても北京五輪当時のスッピンに戻せるだけです。その普段の北京を見て選手生命の危機を感じた有力アスリートが出場を取りやめました。

 新華社発を受けた共同通信《8億人が「呼吸困難に」 中国で大気汚染拡大 新華社が異例の論評》はこう始まります。《中国国営通信新華社は11日、今年深刻さが際立つ大気汚染を総括する異例の論評を配信、有害物質を含んだ濃霧は全国104都市に拡大し「8億人余りが呼吸すら困難となった」と振り返った。論評は「応急措置は役に立たず、濃霧発生は常態化した」とし、政府がここ1年、有効な解決策を打ち出せなかったことを示唆している》

 重篤スモッグで国際的に有名になった北京など北部に比べ、ビジネスが盛んな上海など東部地区は比較的大気汚染が少ないとされてきたのに先週は強烈なスモッグが覆いました。週明けには南部の香港までも濃いスモッグになり、もともとスモッグで知られる重慶など内陸部と合わせて全滅の様相です。ロイターは人が住む環境でなくなった点をとらえ「上海を2020年にロンドンやニューヨークと並ぶ世界経済の中心にする中国政府の野望の足かせになっている」と論評しています。

 《新華社の論評は、汚染により多くの国民が健康被害を受けたほか、小中学校の閉鎖や汚染物質の排出企業の生産停止が常態化したと指摘。12月に入り東部で深刻な有害濃霧が発生した際、多くの環境担当部門が緊急対応を試みたが「上海、南京、杭州などの地域が重度の汚染に見舞われるのを阻止できなかった」と強調した。さらに周生賢環境保護相の「発展の結果が健康な人を不健康にしてしまったのなら、皮肉なことだ」とする言葉を引用し、経済成長を最優先させてきた発展の在り方を問い直している》

 中国の経済成長率を今のまま延長して経済規模世界一が間近と見る愚かさにようやく気付いてもらえたようです。《『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない》で「起きている事象を冷静に観察すれば、根本的には打つ手がないほど環境対策を長期放置した超重度汚染であり、かつて日本が大気汚染を逆バネにして成長したほどの技術的蓄積が中国に無いのは明らかです」と早くから指摘してきました。大気汚染ばかりでなく水資源の汚染や土壌汚染も救い難いレベルに進んでいます。詳しくは「インターネットで読み解く! 環境・資源」の今年の項を参照いただきたいと思います。

 【参照】第401回「中国大気汚染の実態:二次合成と工場が2大源」 (2014/01/07)