第472回「甲状腺がんで福島事故否定する見苦しい科学者」

 福島の子どもに多発している甲状腺がんは「放射線の影響とは考えにくい」と専門家評価部会が中間報告をまとめました。彼らのボス、山下俊一氏が「もう増えない」と1年前にした予測と正反対の現実なのに唖然です。科学者が立てた仮説に現実が反していたら、仮説を疑うのが科学の大原則です。「100万人に1〜2人」とされてきた従来の甲状腺がん発生頻度に対して、事故当時ほぼ18歳以下の38万5千人を調べて、これまでに87人のがんが確定しています。これは第一次検査段階である1年前の倍増以上です。「スクリーニング効果」では抗弁し得なくなっています。

 山下氏は首相官邸の《福島県における小児甲状腺超音波検査について》で《医療界ではよく知られたスクリーニング効果(それまで検査をしていなかった方々に対して一気に幅広く検査を行うと、無症状で無自覚な病気や有所見〈正常とは異なる検査結果〉が高い頻度で見つかる事)の発生が懸念》と説明しました。

 さらに1年前の国際ワークショップ《福島の甲状腺がん「放射線影響ではない」?国際会議》報道でこう述べたとされます。《山下教授は、福島県の甲状腺健診で甲状腺がんの子どもがすでに33人手術を受けていることにについて、「5〜6年目にチェルノブイリと同じになることはない」と発言。(1)チェルノブイリと福島では放射線量が異なる、(2)スクリーニング効果が生じている、(3)ハーベストエフェクト(死亡後に発症する病気がスクリーニングによって事前に発見されること)という3つの理由から、「今後も増えるだろうとは予測していない」と結論づけた》

 昨年末の第459回「福島の甲状腺がんは原発事故原因が決定的に」では、1巡目検査で「異常なし」グループから4人が強い甲状腺がんの疑いに進んだ点を中心に取り上げました。これまで知られていなかった事実、2011年3月15日以降に事故当初よりも大量の放射性ヨウ素放出があったとNHKが報じたと指摘しました。3つの原子炉が順次、炉心溶融事故を起こし、その後からさらに多くの放出が続くとはチェルノブイリとは違いすぎていて、山下仮説で説明がつくとは考えられません。

 チェルノブイリ事故当初に使えた医療検査機器は貧弱であったと知られています。山下氏も認めているように現在の日本と検査のレベルが違うのです。日本が過剰な検査であると見るより、現実を映していると考える方が科学のアプローチとして自然です。

 今回、最も詳しく報じている朝日新聞の《福島)甲状腺検査「勧めることが望ましい」 県評価部会》は全国向けでない福島版の記事です。《部会では複数の専門家が、大部分は比較的進行がゆっくりな甲状腺がんについて健康な子どもを網羅的に検査することで、必ずしも治療しなくてもいいがんを見つける過剰診断の恐れがあると警鐘を鳴らした》と山下仮説が生きていると伝えています。それならばこれに反対する立場の専門家のコメントが必須なのにありません。他のメディアの記事にも異論がある専門家は登場しません。見苦しい科学者にマスメディア全体が同調しています。これは際立って異常な事態です。