第494回「中共テクノクラートも日本同様、経済後退で無能」

 中国株式の暴落に続く人民元の切り下げ騒動で中国指導部の経済運営への信頼感が一挙に崩壊しました。日本のバブル崩壊の轍は踏まないと言ってきた中共テクノクラートが経済後退局面では日本の官僚同様に無能でした。前兆は2013年に顕在化した深刻な大気汚染騒ぎにあったと見ます。いま世界陸上競技大会が開かれ、間もなく国威発揚の軍事パレードがある北京の空は青く晴れ上がっているとニュースになっていますが、このために北京と周辺の6省市で1万の工場と4万の建設現場が操業停止になったと伝えられています。システム的に誘導するのではなく、場当たりの強権発動でしか事態を動かせない体質を象徴しています。日本の官僚も右肩上がりの時代には経済の各種調節弁を巧みに使って優秀だったものですが、いま必要なのは調節ではなく改革です。

 中国経済は明らかに減速しているのに政府発表のGDP成長率は7%維持です。日経新聞の《中国経済の行方(中)》が経済実態との乖離をこう指摘します。

 《李首相がかつて注目していると発言した銀行融資残高、電力消費量、鉄道貨物輸送量をもとに、「李克強指数」が作成されている。同指数ではこの3つの指標のウエートは電力消費量が40%、鉄道貨物輸送量が25%、銀行融資残高が35%になっている。15年上期(1〜6月)の同指数の伸び率は2%台に下落している(図参照)。個別にみると、銀行融資残高は14%前後伸びているが、電力消費量の伸び率は1.3%しかなく、鉄道貨物輸送量はマイナス10%程度と大きく落ち込んでいる》

 電力消費量はGDP2桁成長時代には前年同月比で10%以上増加が当たり前でしたが、今年に入ってマイナスになる月が増えています。製造業から三次産業への比重移動があるにせよ、電気消費が落ちるのは異様です。低成長どころかマイナス成長に落ち込んだのではないかとまで疑われる要因です。詳しいグラフが《中国経済の減速と電力消費量・鉄道貨物輸送量の推移》で提供されています。

 大気汚染騒ぎの始まりで国民的な関心を呼んだ米国大使館によるPM2.5濃度測定公表に対し、中国政府の立場は「迷惑な活動」でした。資源の超浪費型経済成長への危機感がなく、世界の石炭消費の半分を中国が占める恐ろしさを知らず、むしろ誇っていました。2014年の第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」で論じたように、ドライブできないほど事態は重篤化しました。

 思うままの制御が効かないのは大気汚染など環境問題だけではなく、株式市場や為替市場も同じと知らない中国指導部は第492回「中国の妄想、市場の美味しい所だけ取り逃げ」で指摘した「食い逃げ」の愚行に出ました。

 ロイターの《アングル:元切り下げの影響に驚く中国当局、相場安定図る意向》が狼狽ぶりを報じています。

 《代表的な政府系シンクタンクの有力エコノミストは、政策担当者は人民元切り下げが世界経済に及ぼす影響を過小評価していたと説明する。李克強首相と先月、政策について協議したというこのエコノミストは「経済が減速し株価が急落したタイミングを選んでしまったため、切り下げを通じた景気テコ入れを狙っているとの間違ったシグナルを諸外国に送り、切り下げ競争を招いてしまった」と明かし、「そういうわけでわれわれは守りの姿勢に入った」と続けた》

 中国網の《中国経済は「ジャパン・シンドローム」をどう回避するか=北京大学国家発展研究院院長》は内陸部の発展はこれからで「中国の経済成長に大きな潜在力がある」との立場です。可能性があるとしても賃金上昇などで生産コストが既に米国並みに高くなってしまった中国に新たな投資が来るのか、疑問大です。逆に人民元切り下げで資本流出が想像以上に大きくなり、人民元相場を買い支えているのが実情です。第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」で指摘した発展阻害要因にもお気付きでないと見えます。