第523回「日本衰退の米国留学、増大各国の裏事情を探る」

 アジア各国に押されまくって日本の米国留学衰退が嘆かれています。質の悪い学生まで送り込む中国に注目が集まりがちですが、人口1万人当りの留学生数で見ると韓国と台湾は極めて特異であり各国の裏事情を探ります。日本の米国留学生は1990年代半ばには5万人に迫り、国別のトップだったのです。90年代末に中国に抜かれ、2000年代初頭にインド、韓国にも追い越されました。さらにカナダ、ブラジル、台湾に抜かれ、2014/15スクールイヤーでは10964人と7位にまで落ちています。

 3月下旬にウォールストリートジャーナルが掲載した《群れなす中国人留学生、米大学で不協和音》に注目しました。中国からの米国留学は30万人の大台に達し、英語をほとんど喋らないで留学生活を過ごす中国人学生まで出現したと報じました。米国で学ぶ留学生総数は97万5000人なので3割にもなります。  現在の上位7カ国について過去の推移を「Open Doors Data」から拾い、グラフにしました。経済成長が続いた中国の伸びは凄まじく、一人っ子政策で少ない子に教育費を潤沢に注いだ結果でもあります。中国に次いで巨大人口のインドは政権交代で停滞気味だった経済成長が動き出し、中国に置いて行かれた米国留学に火がつき始めました。ここで中印以外の動向を見るために2014年の人口1万人当りで計算した留学生数の推移が次のグラフです。  英語が話せて地続きの隣国カナダは特別として、数千万クラスの中規模人口3カ国の特異さが浮かび上がります。中でもサウジアラビアは人口1万人当り20人に迫り、日本の1.5人とは10倍以上の差です。国民500人に1人が米国留学生になった秘密は前の国王名を冠した奨学金制度です。2005年設立で授業料全額に生活費・医療保険、年1回の帰国往復運賃までが支給されてきたのです。しかし、原油収入激減で2016年からは世界で上位100校など高ランクの大学に制限することになりました。原油安が続くなら、今後は大きく減るはずです。

 10人から15人前後を維持している韓国と台湾には大学進学率が急速に高まった共通点があります。日本の5割に対して韓国は8割、台湾は20歳前後で7割あって年長での進学も多いので韓国と変わらないでしょう。おまけに国内で評価が高い大学が限られているのも共通で、多数の米国留学は進学したい大学に乏しい現状を補っていると見るべきです。

 もちろん就職難にも関係しています。2014年の第415回「留学の大変動、中国と韓国の壮絶な就職難から」で描いたように、中国では既に留学帰国組が就職で苦戦するようになっていました。2016年の大卒者は765万人、それに帰国組40万人が加わり、日本の十数倍の規模。経済成長減速もあって非常に厳しい就職事情と言われます。

 ところで、日本の米国留学衰退は深刻な問題なのでしょうか。人口1万人当りの指標を見ると「英1.67」「仏1.37」「独1.26」であり、日本の「1.50」はちょうど西欧先進国並に落ち着いたとも言えます。「3」を超えていたのが異常だったのです。韓国や台湾のように行きたい大学が無くて困る事情はなく、18歳人口が大きく落ち込み、今後さらに減る状況は第511回「科学技術立国さらに打撃、大学淘汰で研究職激減」のグラフで確認できますから、自然の成り行きと判断すべきではないでしょうか。

 一方、中国が「2.22」に達しました。人口の6割が貧しい農村部出身である点を考慮すると、日本が経験したことがない「5」を超えているとも見られ、「粗製」留学生が輩出して当然と思えます。