中国異聞を取り上げた記事2件(20100328)
★中国異聞補遺:5〜10年で高度成長の頭打ち?(3/27)

 ネットに出てこない新聞記事ながら、しばしば出さないのがもったいない、是非読むべきであると感じるのが日経新聞の「経済教室」です。3月26日、前の東大総長で三菱総研理事長、小宮山宏さんの「『創造型需要』で先行利得を」もその一つでした。特に注目は中国の高度成長の行方を、人口1人当たりのセメント生産量の累計、自動車販売数などから考える思考方法です。結論は「このことから見ると、中国の成長が世界経済をけん引できるのは今後5〜10年ほどと見ておかしくない」です。

 記事そのものを読んでいただきたいところですが、安く重くて地産地消主体であるセメント関係だけ抜粋すると、セメントの1人当たり総投入量は2008年で日本29トン、米国16トン、フランス22トンです。中国は既に11トンに達し「このままの成長率が続くと仮定すると12年に米国、16年にフランス、20年に日本並みに達する」と見積もられます。

 中国についての未来予測で、これほど具体的な指摘は珍しいと思います。セメントや自動車のような人工物の飽和は近い将来に訪れるから、それを「普及型需要」とし、逆にまだ姿を見せていない需要を「創造型需要」として、そこにこそ日本の強味、「ものづくり」活性化の場があると主張されています。


★混沌の現状と将来像を占う中国異聞3件(3/21)

 中国について今週、注目したい記事を3件見ました。食用油の1割は極めて不潔な方法で再生されたものという驚愕、また中国政府が最も恐れるのはネット世論、そして中国の将来に民主化は来ないだろうとの予測――巨大な「象」が今どこをどう歩き、どこへ向いていくのか、考える資料になると思います。

 まず「レコードチャイナ」の「『リサイクル食用油』その原材料は下水道の汚水!年間300万トンが国民の胃袋へ―中国」です。最初は半信半疑、ちょっとオーバーな言い方をしているのだろうと思っていたのですが、違っていました。「<続報>リサイクル食用油、当局が飲食業界の実態調査へ―中国」や「<レコチャ広場>汚水から作る『リサイクル食用油』は中国人の浪費好き・拝金主義が生み出した―中国」と続くニュースを見ていると、この国民には倫理観が無いのかと、絶望したくなります。中国旅行をされた方は胸が悪くなる思いでしょう。

 「リサイクル食用油のニュースは全ての中国人の怒りと驚きを招いた。われわれは豊かになった。しかし病気、特にがん患者はその数を増している。リサイクル食用油は高温で精製されるために細菌やウイルスの心配はないかもしれない。しかしその中にはヒ素の百倍も毒性が高く、地上最強の発がん性物質とも呼ばれるアフラトキシンが含まれているのだ。なるべく外食は避けること。特に揚げ物や水煮魚(油で川魚を煮る料理)はリサイクル食用油が使われることが多い料理だ」

 「ニューズウィーク日本版」の「中国がアメリカに背を向ける理由」がネット世論こそ中国政府を動かしていると指摘しています。

 「中国が自信満々だという印象を受けるかもしれないが、実際は違う。いま中国の指導者を突き動かしているのは、底知れない不安だ」「今や世論の動向を無視すれば、共産党支配の存続が脅かされかねない。『現在の中国政府はこれまでなかったほど、国民のナショナリズムの高まりに応えて振る舞いを決めなくてはならなくなった』と、中国屈指のアメリカ専門家との呼び声も高い北京大学国際関係学院の王緝思(ワン・チースー)院長は言う」「『世論とは主にネットユーザーの意見のこと』だと、中国人民大学国際関係学院の金燦栄(チン・ツァンロン)副院長は言う。『中国のネットユーザーは、アメリカより1億5000万人多く、3億8400万人。中国の指導者は方針を決める際、この層の多数意見に大きく注目する』」

 民主主義のシステムを持たない国だからこそ、「世論」は無視できないはずです。自由な世論調査を許さない以上、膨大な参加者の間から勝手に出来上がってくるネット世論を尊重せざるを得ない理屈になります。だからこそ、グーグルと衝突している、ネット上の言論統制は捨てられないのです。

 中国の将来の民主化に期待する人は多いと思います。ところが、「JBpress」の「民主化の道は絶対に選べない中国」は台湾民主化の過程との比較から、その可能性は低いと論じます。「李登輝の民主化運動は、政治制度の正当性を確立するだけでなく、台湾という島から国共合作、国共対立といった『外来的要素』を排除し、台湾人のための台湾をつくるための手段であった」「李登輝の『民主化』は我々が知るような『中国的』現象ではなかったのだと思う。どうやら中国が『何かの拍子に』民主化することはなさそうだ。やはり中華人民共和国の究極のモデルは『台湾』ではなく、『シンガポール』である」

 御しにくい相手であることがますます明白になっています。おまけに大国になった(あるいは数百年ぶりに大国に復帰した)にもかかわらず、時として不都合があると「途上国」の面をかぶってすませます。地球温暖化問題などで世界から不評を買ったのに、中国政府が内向きにならざるを得ない仕組みも見えてきています。 (了)


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