パソコンでハイビジョンは見られない?(20040114)

 1月7日の新聞朝刊は、NECから地上波デジタル放送の録画ができるパソコンが業界で初めて発売されると報じた。急速に売れ出しているDVDレコーダーを含めて、昨年12月の放送開始以来、録画可能をうたう製品がなかなか現れなかった。現在のDVDレコーダーは、もともとハイビジョン録画を想定していないが、パソコンなら少し手を加えれば対応は可能と期待した。

 ニュースリリースからリンクされている「仕様一覧」にある注釈を読むと「ハイビジョン映像をパソコン上で処理しやすい解像度へ変換して表示します」と、何かすっきりしない表現でおかしい。ネット上で調べると、苦肉の弁であることが判明した。AVウオッチの「NEC、業界初の地上デジタル録画対応『VALUESTAR TX』」に「ただしハイビジョン放送でも、パソコン上での表示はすべて480pに変換して表示される。外部の映像出力もS/コンポジット出力のみしか装備していないため、VX980/8Fでハイビジョン画質で視聴することは不可能」とあった「480p」とは有効走査線の数が480本を意味しており、普通のテレビ放送と同じ。

 仕様一覧で確認すると、地上デジタル放送の「テレビ録画機能」項に「独自形式(デジタルハイビジョンテレビ放送(14Mbps)、デジタル標準テレビ放送(3〜7Mbps)の録画可能」と書かれている。Mbpsは毎秒百万ビットの転送速度を表し、MPEG2形式でハイビジョン画質になるのは22Mbps以上とされるから、公表されている仕様をハイビジョンとは言い難い。いや、ハイビジョンであるかどうかは走査線数が720本以上あるかが決定的な要素だ。実態は普通のテレビ並みで、水平方向の情報密度だけは高めてあると判断すべきだろう。

 では、BS/110度CSデジタル放送の同じ項を見ると、「独自形式(デジタルハイビジョンテレビ放送(24Mbps)、デジタル標準テレビ放送(12Mbps)」。こちらのハイビジョンは本物のようである。比較すると、地上デジタル放送の場合は標準放送の画質を意図的に落として、「独自ハイビジョン」をきれいに見せようとしている疑いすらある。

 放送ソフトの違法コピー問題に発展しかねないと、パソコンの万能性を警戒するにしても、あんまりな気がする。ハイビジョン録画が出来ないどころか、このパソコンではハイビジョン視聴が出来ない。これが50万円もする旗艦モデルである。

 2004年春から国内のデジタル放送には「コピーワンス」の規制が掛けられる見通しだ。ハードディスクに録画したら、DVDに落とせなくなるなど、それだけでも不自由なのに、ハイビジョン放送は録画はもちろん、放送時でも見られないとなると、日本の地上デジタル放送の最大の売り物はハイビジョンなのだから、パソコンでの地上波デジタル普及は難しかろう。メーカー側は普及させたいが、違法コピー問題も怖いと、早々にジレンマに陥っている。

 昨年からDVDレコーダーが大いに売れているが、こうした録画したい放題の時代も長くは続かないことは、ここまで読まれたら感じ取れるはず。デジタル化をきっかけに規制強化に走ろうと関係業界は狙っているからだ。しかし、米国では多少、事情が違っていて個人利用の範囲ではコピーは自由にする見込み。PC Watch「後藤貴子の米国ハイテク事情・■なぜか日本よりゆるいアメリカのデジタルTVコピー規制■」に詳しい。欧米では既にデジタル放送が始まっていても、ハイビジョンが話題にもならない点で日本と大いに違っている。(了)

▼ご感想はメールで
パケ代最大90%カット パケ割サイト[無料]
8.目次