米・金融工学の破綻と日本呑気政治(20080926)
 米証券大手リーマンブラザーズの破綻、米保険最大手AIG経営危機とニューヨーク連銀巨額つなぎ融資、さらに米国政府による金融不良資産買い取りなど数十兆円規模の金融対策と、連日、米国から流れる金融ドタバタ劇が何を日本国内に及ぼすか、考えついているでしょうか。この信用大収縮で米国消費者は借金返済に走らざるを得ません。彼らの借金をしてまでの消費拡大で、近年ずっと世界的好況を支えてきた米国経済が一気に不況に落ち込みます。輸出頼みで何とか凌いできた我が国産業が早急に内需型に転換できないなら、深刻な経済苦境が目前に迫っているのです。

 ところが、自民党総裁選がネックになって日本の政治は動く気配さえ見せません。ほとんど誰も注目しなくなった自民党の顔選び、しかも、競われる政策には目の前で起きている激動が盛り込まれていない、呑気な父さんぶりです。「リーマンの破綻はアメリカン・スタンダード終焉の第二章」が「世界の会計基準が国際(欧州)基準に統一されつつあるが、これをアメリカン・スタンダード終焉の第一章」「一連の米金融機関の破綻は、アメリカン・スタンダード終焉の第二章であることは間違いない。ピンボケの総裁選など早く手仕舞いして、為政者は真剣にこの国の行く末を熟慮・熟考し、明日への希望を切り拓いて欲しいものである」と指摘しています。

 今回の破綻劇を振り返って、金融規制当局が金融工学によって生み出されたデリバティブ(金融派生商品)の取引内容を十分理解できていなかったとの見方があります。「リーマン・ブラザーズ破綻などへの雑感」は「証券化という手法は、様々な意味でとても優れている(リスク分離、多様な流通性(広く薄く資金を集めることもここに含まれる)、組合せの自由度の高さなど)。しかし、こうした自由度の高さが、証券化商品の構造を高度にし、商品を理解することを困難にさせる。つまり、証券化商品は、多くの人たちから広く資金を集めることを可能とする一方、それを十分に理解することが出来る人を限定するという矛盾を抱えているのである」と分析しています。

 発端になったのは住宅サブプライムローンの証券化とその世界規模の販売でした。サブプライムローン危機が言われて、国内では悪質な部分だけを分離すれば健全化は可能であるかのようにも説かれましたが、証券化されたものを細分化し、組み合わせる再証券化(CDO)で事態は抜き差しならないところまで進んでいたのです。「証券のバブル化とその崩壊(2) バブルの崩壊」は「再証券化(CDO)で拡大した金融市場を、さらに拡大(バブル化)させたのは債務不履行に対する保険という金融商品(CDS)である」「2001年0.9兆ドルであったCDS市場が62兆ドルまで膨れ上がっている。保険保証総額は400兆ドルとも言われている」「CDSの発行者はもはや大元の債権には無関係な立場にあり、買い手もまた債権者が保険としてリスクヘッジしているのではない」「これは、バクチ経済と呼ぶのがふさわしい。予想屋(格付け)を羅針盤として、小さな掛け金で債務不履行の発生にかける客と、同じくデフォルト率を根拠に低い掛け金でお金を集める胴元の間の駆け引き市場なのである」と断じます。

 ドル信認喪失の恐れが米国政府を突き動かしています。2004年の第142回「巨大なドル買いと米国・双子の赤字」で考えた「破局の先送り」がついに終局に近づいたのでしょうか。貿易赤字は拡大し、イラク戦費の負担はさらに増しています。経済産業研究所の「米国の経常赤字が持続可能ではなくなるとき」は膨張する貿易収支赤字をいつまでも海外民間資本が賄いきれないことを指摘した上で、米国経済の特殊性から「ドル安に伴って、金利上昇と財政引き締めが同時に行われ、米国の内需成長率が大きく低下するしか、米国の輸入の減少を通した対外赤字の縮小はあり得ない。他方でドル安とその他世界の国々の為替レートが強くなる中で、その他世界がその内需の成長率を高めて米国の輸出を促進するしか米国の対外赤字は減らない」と立論しています。今回の破綻とそれが招く米国不況は、世界経済の正常化へ好機かも知れません。 (了)


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