民主党へ、親の欲目が流れを変えた(20060501)
 4月23日に投開票の衆院千葉7区補選で、民主党の元県議・太田和美氏(26)が955票差で勝った。87046票対86091票(自民党候補の元埼玉県副知事・斎藤健氏)の小差だった。民主候補が無党派層をダブルスコアで取り込み、公明支持層はほぼ完全に自民候補に回ったのに、自民支持層をまとめきれなかった。民主党でここを地盤にする南関東ブロック選出議員が、ニセ送金メール事件で勝ち目がないからと立候補を避けたことを思うと、ほんの1カ月ほどで隔世の感ありになってしまった。

 今回の選挙戦報道はスポーツ紙が細部を詳しく書いて面白い。日刊スポーツは「小泉劇場健在!最後の演説2万6000人」で、小泉首相が「総理として最後の街頭演説」で大聴衆を集め、斎藤候補の演説を「ほとんど『前座』扱い。候補者を食ってしまった首相の、まさに『最後のワンマンショー』が、延々と繰り広げられた」と伝えた。一方で「小沢氏熱弁も聴衆わずか1800人」は、同じ15日、民主党・小沢新代表が選挙区北端の過疎地域で、ビールケースの上から遊説を始め、それは師・田中角栄の教え「支持は川上から川下に広がる」にならったと報じた。小泉首相は「自民党の悪いところは、私が全部ぶっ壊した」と小沢・民主を批判し、小沢代表は「今度こそ本当の政権交代をやる」と訴えた。

 前日14日には小沢代表は太田候補に「自分に会いに来ても票にならないから、一人でも多くの有権者と会いなさい」と指示して、独自に企業回りのどぶ板選挙をした。ブログにピンポイントの報告「小沢一郎・民主党代表が来てくれた!」(会社で犬、猫を育てる社長の日記)が出ている。「小沢氏は玄関で俺と握手をすると、どんどん事務所の社員のいるところへ入っていって、『皆、写真でも撮ろうか?』と言ったね。『ツーショットでもいいよ!』って言ったから、みんなは『ワ〜!』っと喜んで、会見するはずだった応接間がいきなり“写真スタジオ”になってしまった」「小沢一郎氏のオーラはすごかった。俺もずうずうしいから、滅多に人に呑まれるなんてことはないのだが、今日だけは別だったな」

 事実上の一騎打ちをしている両候補者の資質にも、普通の有権者の感覚からは見える、大きな差があるのかもしれない。「来年の参議院選挙の前哨戦と位置づけ千葉7区」(人間ちょぼちょぼ日記)はこう指摘する。「自民党から立候補した元官僚は、<国家公務員として安定した生活を投げ打って立候補しました>と、ぬけぬけと厚顔無恥の演説するし、民主党の若い女性は、本来この選挙で立候補するはずだった民主党男性議員の臆病風を消し飛ばすような元気な訴えをしていました」

 衆院補選だけではない。小沢氏は国会開会中を理由に、若手メンバーに鳩山幹事長と渡部国対委員長が乗った前執行部をそっくり再任した。さらに菅代表代行も加えたのも悪くなかった。「民主党老壮青の新しいモデル」(金子仁洋の金言毒言)が「日本の針路を若手は示せなかったことを意味する。成熟社会の行く手は、昨日や今日、成り上がった者ではわからない。やはり、ベテランの智慧を借りながら、若手が実行に走るということか」「ベテランと若手のミックス、それが大切だとなると、民主党の政調会長松本剛明の任は重大だ」と主張するような読み方も出来るようになった。もちろん、結果はまだ先だ。

 補選で民主党は負け続けていたのだから明らかに流れが変わったことになる。どこが転換点だったのか考えると、小泉首相と前原・前代表の党首討論があった2月22日の夜だと思い当たった。送金メール問題を取り上げた永田議員は説得されて議員辞職に傾いていたのに、翌日未明に海外出張中の父親に電話して反対されると翻意してしまった。そのまま辞職すれば民主党執行部が傷ついたとは言え、前原代表の退陣に突き進むことはなかった。あれからの愚図愚図が傷口をどうにもならないほど広げてしまった。東大工学部卒、大蔵省官僚、民主党代議士と進んできた、良く出来た息子への、親の欲目がレールのポイントを切り替える梃子(てこ)を押した。 (了)

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