評論「ネット接続に群がる日本の光景」から(20041017)

※評論の全文はA4文書で8ページある長文です。読まれる方は「ネット接続に群がる日本の光景」(通勤ブラウザ経由・携帯電話可)へどうぞ。

 ここでは以下に冒頭の4分の1程度を掲示します。


 欧米人の気質を小さな集団で狩をして生きる肉食獣とすれば、日本人は群をなす草食動物と評した人がいた。それもバッファローの大群の如き存在で、ふだん容易には動かないが、ある朝、気付いたら大河を渡って故郷から遠い草原を支配してしまったりする。今、インターネット上で起きている光景には日本にしかないものがある。その大規模さはネットで繋がっているはずの海外の人たちからは想像が出来ないほどであり、日本人の特性が生み出したと考えざるを得ない。

 ここでは三つのタイプに分類して論じる。海外でも有名になった出会い系サイトに代表される「個人対個人」、メールマガジンと個人ニュースサイト隆盛に見る「個人対大衆」、そして国産ファイル交換ソフト「Winny」が創出した巨大水脈「大衆対大衆」の世界である。

●人口統計を動かすネット出会い

 二〇〇〇年に起きた携帯電話の爆発的な普及に、インターネットに接続できる「iモード」サービスが大きな役割を果たしたことはよく知られている。インターネットへの接続は各携帯電話会社で当たり前になり、総務省は二〇〇四年四月末で、携帯電話端末によるインターネットサービスの加入者数を七千二十五万人としている。

 ただ、加入者全員は使ってはおらず、他の調査から考えると実際には五千万人程度がインターネットを利用し、パソコンなど別の端末を持たず専ら携帯電話を使う人は三割、千五百万人くらい。その利用目的のかなり大きな部分が疑いもなく出会い系サイトである。高校生から四〇代くらいまでの世代では二〇%以上が出会い系サイトの利用経験があるとする調査があちこちにある。

 火遊びの機会を求める普通の個人が大量に存在し、出会い系サイトを運営して金儲けをしようとする人がいて、その運営用ソフトに膨大なメールアドレスをセットにして売り込もうとする業者が加わる狂騒ぶりである。お好きなように、と思っていた。

 しかし、二〇〇〇年国勢調査の結果を詳細に検討するうちに、出会い系などネットによる接触機会拡大が中年男性を中心に結婚行動を変えてしまったのを発見して驚かされた。二〇〇一年の拙稿「非婚化の進展をITが阻み始めた」でこう分析した。

 この国勢調査時点で五〇代前半の男性は、直前の五年間で一・二%もが結婚した。この同じ世代が四〇代後半だった五年間に結婚したのは〇・五%に過ぎず、五〇代に入る時点で結婚を諦め始めていたはずだったのに結婚意欲が再燃したのだ。一・二%は六万三千人に当たる。結婚の動きが全く無くなっていた五〇代後半の男性も〇・八%が結婚し、四〇代前半まで男性側の結婚増加傾向は続いていた。

 女性側をみると二〇代を除いて中高齢まで結婚への動きが以前よりプラスに出ていて、特に三〇代の増加幅が大きい。中年男性側が子どもが出来る結婚相手を探したことをうかがわせる。出会い系利用者の調査ではこうした男性にエンジニアが多く、職場で適当な相手が見つかりにくいことから結婚相談業者の重要な顧客だった。

●日本以外では立ち上がらない

 これだけ劇的な影響力を持つ携帯電話によるインターネット接続が、日本以外ではなかなか立ち上がらない。欧米に持ち込んでみると写真を撮ってメールに添付したりする機能は面白がられるが、出会い系サイトなど冗談ではないと一蹴されるようだ。

 当然と思う。日本にだけ小金を持ち、軽薄で好奇心に満ち、パソコンには弱い層が大量存在している。最新の文明の利器を子どもに使わせることを、親はあまり心配しなかった。いや、ブームになった新しい機械に親しませることは乗り遅れを嫌がるこの国の風習では昔から善である。そうした中、ネット上の体験記などで娘が父親とメールでやり取りするようになって初めて意志疎通をしたとか言われると、あなたの家庭はどうなっているのか問いたい気になる。

 携帯電話による出会い系サイトをきっかけにした児童買春などの事件が実際に急増している。警察庁に報告されている出会い系関連の児童買春事件は二〇〇二、三年と続けて七百件を超えた。これも氷山のほんの一角でしかない。結果がこれほどの変化であっても気にしないのは、本物の保守主義が存在しない日本だからだろう。

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