大津波で問うNHK国際TV放送の失態(20050109)
 インド洋大津波の発生から2週間になる。地震はマグニチュード9と大きかったが、かなり沖で発生したために陸地部の震度は大きくないことが判明した。死者・行方不明の合計18万人に迫る被害のほとんどは津波がもたらした。ブログ上での情報を整理しているうちに、とても重大な視点が見落とされていることに気付いた。アジア・アフリカで広く見られるNHKの国際テレビ放送が東京発のニュースで「スマトラ沖でM8.3の地震がありました。かなりの被害があった模様です」と流しながら「日本での津波の影響はありません」としかコメントしなかったのである。

 インド洋の島国モルディブに、半年遅れの新婚旅行に来ていた「リーマン成金計画☆生きてるだけで丸儲け☆」の作者は、朝6時に大きな揺れを感じて目を覚ます。7時過ぎにテレビのチャンネルをNHKに回して上述のニュースを聞いて「ガクッ。『知りたいのはモルディブへの影響に決まっとるやろ!』とTVに虚しいツッコミを浴びせ、朝食に向かう」

 夫婦のコテージに濁流が押し寄せてきたのは2時間後の午前9時半ごろ。岸までたどり着こうと流木につかまったりしながら二人で必死に泳ぐ。作者が水上バーの柱にしがみついて振り返ると、妻が濁流で沖に引き戻されるのが見えた。その時、バーのスタッフ二人が濁流に洗われている桟橋を危険を冒して駆け、妻の救助に向かってくれた。作者も3番目に走った。桟橋の先につかまった妻はスタッフが引き上げてくれた。

 スタッフの行動はいくら感謝してもしきれない良い話だが、翻って商業マスメディアの中でも新聞に身を置く者として、NHKの国際テレビ放送は視聴者との契約関係を忘れていると糾弾したい。新聞業界の古い言葉に「読者への忠誠心」がある。色んな意味を含むものの、ここでは地域性にしぼろう。新聞の場合、印刷される時間帯により配達地域が決まっている。その時間帯の新聞は、当該地域社会での価値観・有用性を盛り込んでつくられる。全国紙の視点も大事ながら、当該地域に配慮した記事差し替えなど日常茶飯事で行われる。そういう暗黙の契約で購読料をいただいている。

 民放は視聴者と契約関係にないが、新聞社が出した資本が大きいためもあり新聞に準じた関係をつくっている。NHKは受信料を取っている以上、明らかに視聴者と契約関係にある。通信衛星を使っている国際テレビ放送「NHKワールド・プレミアム」なら毎月テレビ1台3000円の料金を取っている。ホテルでの契約額は交渉次第で変わるようだが、料金を取って見せている事実は同じだ。M8級の海洋地震が起きているのだから、東大地震研の先生を探せば必ず津波の危険性があるとのコメントは採れる。「日本での津波の影響はありません」の後に「なお、東大地震研によるとインド洋地域では津波に警戒する必要があります」と付け加えるだけで、放送を見た日本人やその周辺にいる人たちは身構えたはず。

 太平洋の津波警戒システムからの連絡は緊急性の質はともかくとして、インドネシアとタイには届けられた。両国とも観光政策への配慮などで生かせなかったが、インドやスリランカ、モルディブには全く連絡は行かなかった。でも、NHKの国際テレビ放送を見た人はインド洋地域に多数いたはずだ。地震国日本からのメッセージが惨事の様相を変える可能性があった。国際配信しているのは子会社のNHK情報ネットワークだからという弁明は通用しない。

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