巨大なドル買いと米国・双子の赤字(20040219)

 政府は明るさが見えた景気回復が為替相場の円高で腰砕けにならないよう、1月1ヶ月間だけで7兆円もの円売りドル買い介入を実施した。2003年の年間ドル買いも20兆円を超えており、介入資金枠が底をついたが、2004年は財務省の外為会計資金枠を140兆円まで増やして泥沼の介入を続ける構えである。昨年の米貿易赤字は52兆円、2004年度の米財政赤字は53兆円を超すと見込まれる。この「双子の赤字」拡大に加え、日本政府も巨額な財政赤字に陥っており、従来までの円売りドル買いとは違った事態が進行している可能性がある。経済専門家の意見は大きく分かれているので、あまり先入観念を持たずに、考え方を整理してみたい。

 ドル買い資金は米国債に化ける

 いま進んでいるドル買いの巨大さは、いかばかりか。過去最高だった99年でさえ年間7兆6千億円に過ぎなかった。

 国内では日銀が資金を供給しているから、通貨供給量に響きそうな感じもするが、買ったドルは国内に戻すことなく大半を米国債購入に充ててしまう。外貨準備高が名目的に積み上がっていくばかりで、当面の国民の暮らしには何の損得もない。しかし、米国や対ドル為替相場を固定している中国などドル圏への輸出企業が国内に多く、円高の進行が遅れることで収益悪化が防げる。

 ここまでは教科書的なまとめだ。次に株式投資を支援しているゴールデンチャート・エー・エム・エス社の「機関投資家の見るマーケット〜米国は、経済の原理に沿わない論理矛盾の政策を選択〜」を見たい。ドル安が進むことで、従来から米国債を持っていた投資家は損をすることになるはずだった。昨年春以降「米国の投資家は、日本からの介入(13兆円)で、それまで保有していた米国債券を、損することなく売り抜けることができ、得られた資金の次の運用に6兆円が日本株に投入され、日本株は急騰劇を演じた」。この結果、4月の安値時には236兆円しかなかった日本の株式時価総額が、9月には307兆円にも膨らんだ。ドル安で米国債が減価した分の痛手が顕在化するのは遠い先の話。株式時価が膨らむことで、存亡の危機にあった銀行業界をはじめ多くの企業は一息ついた。

 ところが、ブッシュ共和党政権が再選を目指して支持基盤である製造業等の要望に応え、ドル安政策に転じたことで先行きが見えなくなった。円高に終わりが無い様相になった。米国は企業部門、貯蓄意識が薄い家計部門の赤字に加え、政府まで50兆円を超す赤字を出している。「外国から資金を供給して欲しいと叫んでいるのが、今の米国経済だが、諸外国からの米国への資金環流は、ドル買いで、ドル高要因となる。ところが、ブッシュ政権の採るドル安政策は、ドル価値の下落を通じて米国から資金を逃がす方針であり、『ドル債を買い、ドル債を売ってくれ』と言っているに等しい。経済原理沿わない論理矛盾の政策展開で危険な兆候だ」と断じている。

 ドル安にはっきりと向かっている時に普通の投資家は米国債を買わない。資産価値が下がると確約されているモノを買わないのだ。とは言え米国政府にしても、誰かが米国債を買ってくれないと景気を引っ張っている大型減税だって続けられない。その有り難い米国債買い手が日本政府という図式になっている。買い手がいなくなれば債券安から長期金利の大幅上昇で買い手を探す――経済の自律的な調整機能が働いてしまう。景気維持は冷水を浴びてしまおう。

 私の連載第64回「財政赤字・日米のここまでこれから」で見たように、クリントン政権下での財政規律建て直しで黒字にまで持ち直した時期から僅かな時が経ただけなのに、大赤字転落。米国財政赤字は9.11以降の国家安全保障費増大のせいだとする言い訳がある。が、「NET EYE5 プロの視点〜ブッシュ財政赤字、身内からも批判」で紹介されているように、共和党の伝統を逸脱してまで政府も議会も一緒になって異例の「大きな政府」、ばらまき財政に走っている。ここに来て歳出削減を言い始めたものの、この先イラク復興にいくら掛かるか分からないのだ。(次項「破局の先送りと貧困国の窮乏化」へ続く)


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