原発後処理は道路公団以上の無展望(20040415)

 原子力発電で生じる使用済み核燃料や廃棄物などの後処理(バックエンド)費用をどうするか。経済産業相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会を舞台に、にわかに議論が沸騰している。電力業界側が後処理費用として約8兆円が制度として手当てされていないことを明らかにしたためだ。その内、何と3兆円は既に発電して使ってしまった分だという。「出し遅れの証文」なのに堂々と消費者に転嫁を迫るところが、親方日の丸企業の面目躍如である。そういう話ならバックエンドのありようそのものを見直すのが筋ではないか。バックエンド費用の過半を占める核燃料再処理工場は2005年稼働を控えて、試運転が間もなく始まる。いま中止か凍結を決めれば工場の施設は放射能で汚染されておらず、撤去解体も容易・安価なのだ。

 巨額なツケは消すことも可能

 業界を代弁する電気新聞の「バックエンド事業費、受益者負担の原則を確認−電気事業分科会制度・措置検討小委」は見出しと違って、困難な先行きを率直に書いている。「小売り自由化範囲が拡大される以前の過去発電分は、新規参入者に供給主体を今後切り替える需要家も原子力発電のメリットを受けたことになる。このため電力業界は託送制度の枠組みで回収する枠組みの構築を求め、顧客間・世代間の公平性を保ちながら未回収コストを広く薄く回収する考え方を提示」したが、当然ながら自由化で電力販売に新規参入した業者から「納得できない」と強い反論が出ている。

 「大日向隆・東大大学院助教授が、不確実な費用を計上して消費者に負担を求める困難さを指摘した」という部分も、もっともな話だ。家庭でも企業でも1円でも値段の差を気にする時勢である。資料として示されている「バックエンド事業の費用等について」で「未手当」と表記されている主な項目を拾おう。再処理工場の廃止措置、つまり最後の後始末に、手当てされていない既発電分だけで6800億円が記されている。この巨額な算定を素直に信じて、これから電気料金などに上乗せして払うのに賛成する人が多数いるものだろうか。再処理工場を動かさなければ「廃止措置」のツケが発生しないことは自明である。

 この問題では原発批判側からも様々なコメントが出ているが、ここでは原子力学会の「誌上討論『プルサーマルと再処理問題を考える』」から専門家同士の議論を紹介しよう。

 再処理を選択しないなら使用済み核燃料をそのまま地層処分する方法もある。それぞれの費用の大小を比べた議論が注目である。「(その1) 経済性」は「以上のような検討結果により試算してみると、再処理・プルサーマルは直接処分に比して燃料サイクル費は約2倍となる」と主張している。筆者の「元本会副会長 豊田正敏」は元東京電力副社長で、再処理工場の建設をした日本原燃サービス(現日本原燃)の社長を務めた人物だ。

 のんきな専門家もやはりいらして、「これほど高い再処理はやめるべきなのか?」で核燃料サイクル開発機構・河田東海夫氏はこう主張する。「2兆円を超える再処理プロジェクトは、確かに庶民の日常生活感覚からはかけ離れた巨額のプロジェクトであり、それを誰かが『高い!』といえば、一般人は誰もがそうだと思ってしまう金額規模であるといえる。しかし、見方を変えれば、上述のように石油やLNGの価格高騰による余分な支出の何年か分に過ぎないのである。電気事業の総売上は毎年10数兆円であり、原子力発電だけでも毎年数兆円の売電収入という規模を考えたとき、2兆円の投資はとんでもない額では決してない」

 これに対する豊田氏の反論は次の通りだ。「六ヶ所での再処理費は、その建設費をゼロ即ち、資本費(金利、償却費)を考慮しないで運転維持費だけで数千万円ないし1兆円近くかかると考えられ、再処理・プルサーマルを今後続ければ続けるほど、経済的損失(年間500〜600億円)が嵩むこととなる。2兆円とか、年間500〜600億円の経済損失はたいしたことはないといっておられるが、このようなことを電力消費者、特に、大口電力消費会社が聞いたら、どのような反応を示すであろうか。彼らは、国際競争に打ち勝ち、生き残りをかけて、血のにじむようなコスト低減の努力をしているのに、電力経営者がそのような甘い考えで経営しているのかといった非難が起こることは必至」

 以上は巨額なツケが表面化する前のやり取りである。バックエンド費用が全体で18兆8千億円にのぼり、しかも隠されていた部分がかくも大きいと知れた今なら、もっとシビアなものにならざるを得ない。(次項[先行き不透明な再処理・廃棄物管理]へ続く)


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