ヒトに関するクローン技術の規制に関する法律が述べている禁止理由は,しかし,自明と言える明白さを持たない。並べて問題としている,動物かヒトか分からない交雑個体をつくり出すことが社会秩序を混乱に陥れることは理解されるが,ヒトと同じ遺伝子構造を持つ個体「クローン人間」がいけない理由は説得的に書かれていない。
京都大・倫理学の加藤尚武教授が公表している「朝日のクローン論説(1月24日)はどこがダメか」は,新聞社の論説でもなぜ悪いのか説こうとすると「進化の歴史に逆行することは社会的に許されない」という,おかしな説明しかできない問題点を指摘している。
クローン人間に近い存在が最近,話題になっている。胚性幹細胞(ES細胞)は受精卵から胎児に育つ過程で採れる万能細胞で,本当に何にでも成れる。臓器再生の望みがかかる技術である。私の連載コラム第99回「土建屋国家からバイオ立国へ転進を」で紹介しているように,万能の幹細胞を育てることが「胚性」つまり受精卵由来でなくても可能になりつつある。受精卵側からの規制があるから暴走はすまいと考えられていたのに,それが外されようとしてい る。
クローン技術を規制することも,小さな研究室で可能な技術である以上,実際には不可能だ。こうした細胞工学の進展に,社会の側は一歩も二歩も遅れたままである。近い将来に簡単な生命の「合成」まで進むと考えられるバイオテクノロジーの全容について相当な理解がなければ,規制を考えることすら無意味だと思える。
※追補=クローン人間誕生が現実に言われ始めた2003年初の段階で、これまでの生物学の知見を整理しておく。クローン人間の元になる細胞が一定程度、分化した細胞であるかぎり、細胞分化への色々なスイッチがいくつか「オン」になっている。クローンにする操作をしても、このスイッチは「オフ」に戻らないと考えられる。また、クローン体にあった「違う点」として最初に認識された「テロメア」の問題もある。染色体の末端にあるDNA塩基配列でキャップの役目をし、細胞分裂回数の限度を決めていると考えられ、テロメアがクローン体は短いため、いわば最初から少し老化して誕生してくると言える。 (了)
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