大停電目前?東電の技術力を疑う(20030529)

 東京電力の全原発17基が一時止まり、東京大停電の恐れと言われても、少し前までは「危機感を煽っているだけ」と取り合う気がしなかった。故障が多くても系統的に対処すれば修理は間に合うはずだった。しかし、大きな需要ピークがありうる6月を控え、柏崎刈羽原発6号機1基だけしか運転を再開できないでいる現状を点検して、東電の技術力に疑問を持たざるを得なくなった。金融機関の例が示すように、危ない危ないと言われ続けて「やっぱりダメだった」が、最近のこの国のパターンである。将来のことを見越して強力な布石を打てる人材はどこにもおらず、ポテンシャルの井戸に落ちるように、ずるずると大停電へ向かってしまう恐れがある。

 品質管理の怠り示す不具合の山

 原発17基が今どうなっているか、東電の2月28日付資料をもとに新聞各社のウェブから入手できるデータで一覧にした。詳細不明の原発があるが、取材しようとしても、この会社の体質として取材意図を明かしたら応じようとしないだろう。

[福島第一原発] 1号機(46.0万kW)定検中 10/26停止 ▼10月末まで運転停止命令中
2号機(78.4万kW)定検中 3/31停止 シュラウド取り替え済み・詳細不明
3号機(78.4万kW)定検中 7/18停止 原子炉格納容器の気密性試験へ
4号機(78.4万kW)定検中 9/16停止 ▼シュラウドひび割れ修理へ
5号機(78.4万kW)定検中 2/11停止 シュラウド取り替え済み・詳細不明
6号機(110万kW) 定検中 4/15停止 ◎原子炉格納容器気密性試験完了(5/23)

[福島第二原発] 1号機(110万kW) 定検中 1/7停止 原子炉格納容器の気密性試験へ
2号機(110万kW) 定検中 9/3停止 ▼シュラウドひび 再循環系配管ひび
3号機(110万kW) 定検中 9/16停止 ▼シュラウドひび修理へ 再循環系ひび
4号機(110万kW) 定検中 10/13停止 ▼シュラウドひび修理へ 再循環系ひび

[柏崎刈羽原発] 1号機(110万kW) 定検中 9/3停止 ▼シュラウドひび修理へ 再循環系ひび
2号機(110万kW) 定検中 9/20停止 ▼シュラウドひび修理へ 再循環系ひび
3号機(110万kW) 定検中 8/10停止 ▼シュラウドひび修理へ 再循環系ひび
4号機(110万kW) 定検中 1/7停止 ▼再循環系配管ひび割れ(3/20)
5号機(110万kW) 定検中 3/1停止 ▼シュラウドひび(5/20)再循環系(5/12)
6号機(135.6万kW)運転中      ◎5月9日から発電開始
7号機(135.6万kW)停止中3/29停止 自主点検でシュラウドひび確認されず

 炉心隔壁(シュラウド)のひび割れは国が問題としない程度であっても、住民対策から東電はほとんどを修理する方針を打ち出している。再循環系配管ひび割れは、超音波探傷技術の確かさに疑いが生じており、結局、全部修理するしかないとみられる。行政処分での停止を含め▼印10基はかなり時間を要する。

 逆に運転オーケーの◎印は、発電を開始した柏崎刈羽6号機に、点検最終段階の原子炉格納容器気密性試験を済ませた福島第一6号機だけである。

 無印5基はどうだろう。福島第一3号機と福島第二1号機は4月段階で早くも原子炉格納容器気密性試験を受けさせたいとアピールがあったのに、5月末に至っても実施情報が無い。福島第二1号機は別の場所にひびがあったと伝えられる。柏崎刈羽7号機も再循環系配管を持たない設計の最新鋭機であり「自主点検でシュラウドひび確認されず」である以上、早期に運転再開して良さそうである。が、最近の定期検査は40日程度で終わるはずなのに、もう60日近くも止まっているのは発表されない不具合があるからではないか。現に福島第一6号機は40日完了ペースで進んでいる。

 2月段階で東電が早期に再開させたいと挙げていた「福島第一原発2、3、4、5号機、柏崎刈羽原発6、7号機」のリストと、5月段階の可能性ありリストを比べると、福島第一2号機が消えている。2号機はひびがあったシュラウドを先取り交換してしまっていて条件が良かったはず。何があった!?

 もともとひび割れがあった原発に、さらにひび発見の報道が繰り返されている。これだけ多数の同タイプ機械を長期に運転していて、機械系の故障発生率を管理できていないのは驚くべきことだ。停止して開けてみないと、何が出てくるか分からない。出て来た故障個所に振り回されて、事態を早期収拾するための最適化など誰の頭にも無いかのよう。これが日本一の原発保有電力会社の技術力か。

 新潟日報の東電事件関連連載のひとつ「第7回 丸投げ体質」で田中三彦氏が「東電の技術者は原発の細部が分からない。点検データを読みこなす時間的余裕もなければ、力もない」と断じている。少なくも故障率管理を怠ってきたことだけとっても、状況証拠から明白だ。東電事件での虚偽の報告との関係を検証してみたいところでもある。(次項「ぎりぎりの供給力で停電は防げない」へ)


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