ぎりぎりの供給力で停電は防げない

 柏崎刈羽6号機の運転再開に合わせて、東電は5月8日「勝俣社長会見要旨(当面の需給見通しについて)」を出している。「7・8月につきましては、6,000万kWを超える需要が発生し、猛暑時には6,450万kWの最大電力が発生するものと予想しております。なおその場合には、供給力は▲850万kW不足する見通しであります」とある。資料から7月を中心に拾い出してみた。

 (***は柏崎刈羽6号を含む自前の供給力。!はピーク値)
6月第4週 |*********5402 !5407万kW(過去5年間最大需要値)と一致
7月第1週 |***************5626 !6022(同)
7月第2週 |****************5658 !6230(同)
7月第3週 |****************5655 !6086(同)
7月第4週 |****************5619 !6430(同)
7月第5週 |****************5614 !6320(同)
8月第1週 |****************5610 !6214(同)

 850万kWの不足とは7月第4週に限られているのではない。7、8月のどの時点で最大6450万kWのピークが現れるか、天候次第であり予測できない。あまりに大きな不足を補うべく、周波数が違う中部電力から西の電力各社にも融通を頼んでいる。でも、60サイクルの電気を50サイクルに変換する施設の能力は90万kWが限界。これに、民間企業の余剰分買い取りなどを加えて400万kW程度は上積みできるとしている。

 その上でなら、4つくらいの原発が動き出せば計算上は足りる。しかし、5月26日の東北地方の地震で女川原発3号機が自動停止した例を引くまでもなく、全ての原発や火力発電が1機の落ちこぼれもなく、夏場の60日間、粛々と稼働し続けると想定するのは現実的でない。落雷で一時停止した例だっていくらも ある。

 普及しているインバーターエアコンは定常状態では電気を少ししか使わず確かに省エネなのだが、急に気温が上昇したりするなら、急いで冷やすために敏感に反応するはずだ。1度の上昇は、首都圏で大型原発1基分を超える電力需要を生む。だから「7・8月には、ぜひとも8〜10基程度の原子力プラントの運転がほしいと思っております」と勝俣社長は述べる。しかし、見てきた通り、それは難しいのではないか。

 技術の問題の次には、地元による運転了解の問題が待つ。東電がのんびりやっているのは「じらし作戦」かと思ったことがある。案の定、福島県では地元自治体が早期運転再開を願うような行動に出たが、新潟側の見る目は依然として厳しい。

 東京には1987年7月23日に大停電の経験がある。猛暑による電気の使いすぎで280万世帯が停電、工場も止まり、1兆8千億円の損失だったといわれる。そんな古いことは知らない方でも2001年のカリフォルニア広域停電はご記憶だろう。予測されていて、パニックにならない、比較的管理された停電だったが、損失は5兆円ともいう。

 1977年7月にはニューヨーク大停電が落雷によって引き起こされた。こちらは復旧に手間取った。大都市で高需要の夏場、給電を再開しても不用意にやれば熱砂に水をまいたも同然、たちまち停電に落ち込む。電力消費はエゴのかたまりなのである。足かけ3日も続いたニューヨークでは、9ヶ月後にベビーブームが起きたことでも有名だ。(了)

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