テレビ地上波デジタル化の読み違い(20030329)

 日常生活に欠かせないテレビ――今年末に三大都市で始まる地上波デジタル化と2011年のアナログ放送廃止で、その在りようが劇的に変化する。巨額の国費を投入するのに一般視聴者にはほとんどメリットが無い、など異論があちこちから聞こえるが、国は既定方針通り走り出してしまった。代表的な異議表明に「通信と放送研究会」の「地上波デジタル放送への国費投入に反対する」がある。ここでは少し違った視点で考えたい。デジタル化というと何か進歩的に感じられがち。しかし、テレビと密接な関係にあるパソコン、さらには携帯電話の最近の進歩、変容ぶりと併せ考えると、計画されているような強制的なデジタル化推進には、現状認識に大きな読み違いがあると思えてならない。

 パーソナル化の流れに逆行

 総務省のホームページ「地上デジタル放送」を順に繰っていくと、「高画質・高音質で楽しめ」「見たいジャンルの番組が簡単に選べる」「地域情報も見られる」「双方向だから番組に参加できる」「データ放送、暮らしに役立つ最新情報」……と並んでいる。

 これを結構なことと感じられるかどうか。受信機がハイビジョン仕様を前提にしており、32型で1台30万円はすると言われたらどうだろう。量産で価格が下がるにせよ限界があろう。

 現在、家庭のテレビ普及率は100%に近く、家庭に2台以上あるのが当たり前になっている。アナログ機なら29型でも数万円、14型テレビなら1万円で買える。やはり1万円もしないパーツを買えば、パソコンにテレビ機能・録画機能が追加できる。2台目、3台目として、こうした小型テレビやパソコンが広く行き渡り、今日では家族集まってテレビを見るより、個人で好きなものを楽しむスタイルが主流なのだ。

 仮に地上波デジタル化が計画通りに進んだとしても、家庭の居間に鎮座する大型テレビがデジタル化されるだけに終わるのではないか。ある意味では本当に熱心に見られているパーソナルなテレビ視聴は、大型・高額化には耐えられない。地上波アナログ放送が終了したら、何を見たらよいのか。ケーブルテレビに流れる方向もあるし、もちろんインターネットもある。

 松下電器の「ブロードバンドTVチューナー『Broadnow』正式販売開始」などに将来の姿が予感される。インターネットからテレビやラジオ番組を視聴するシステムである。この製品は40ギガのハードディスクレコーダーでもあり、99,800円と値段が張る。もっと簡便なものが出来るはずだ。

 さらに、こんなシステムも世に出た。

 シャープの「パーソナルサーバー<ガリレオ>」も10万円近い製品だが、インターネットと接続、あるいはテレビ放送から取り込んだ番組を家庭内のパソコンに飛ばすのはもちろん、自宅外からインターネット経由で蓄積した番組を読み出せ、携帯電話で録画指示が出来る。自宅外から録画番組を見られるのはノートパソコンだけで、携帯電話ではまだ無理。しかし、ムービー機能を持つ携帯電話が急速に広まっているのだから、携帯電話で見たい番組の「さわり」を見るくらいは時間の問題と言えよう。

 確かにハイビジョンでじっくり楽しみたい番組はある。しかし、そんな高画質は要らない、気軽にちょっと楽しめれば良い程度の番組が圧倒的に多いのではないか。過渡期混信対策に1000億円以上の国費が使われるほか、自らも巨費を投じてデジタル設備化する放送各社が、そのあげくに視聴者多数を失う危険が待っていると指摘したい。

 1年前、2002年3月の「フジテレビ定例社長会見要旨」に、総務省に強引に引っ張られている民放の本音がのぞいている。

 「デジタル化の良さは、皆が理解していると思うが、日本で進みにくいのはアナログ地上波があまりにも成熟しているということがあると思う。面白い情報もたっぷりある。なぜ、デジタル化しなければいけないのか。それを説得するのがなかなかしんどい面がある。アナログ波が衰退期を迎えていれば、すぐにデジタル化すると思う。アナログが横綱相撲を張っているので、変えづらいということだ」(次項へ)


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