燃料電池離陸と自動車産業の興亡(20031211)

 遠い夢の技術と感じられていた燃料電池が、来年には身近な存在になってしまいそうだ。昨年初めに持ち運べる超小型燃料電池開発のニュースがドイツから入ったのに続き、国内でも東芝がノートパソコン用やモバイル機器用を開発、2004年から商品化するという。一方、燃料電池車は昨年末から試験的な販売が始まった。将来の本命と考える国内の自動車メーカーでは今年になって、海外に頼っていた中核部品を自社開発する態勢がそろい、いよいよ実用化に本腰が入ったとみてよい。

 身近にはアルコール燃料型が

 Hotwired Japanの「超小型燃料電池、早くも商品化へ」を昨年1月に読んだときは、そう簡単にいくのかなとまず思った。このモバイル電源システムを開発したスマート・フュエル・セル社のウェブを訪ねてみると、さらに進歩したらしく「50 % smaller - new innovative features」で屋外でノートパソコンに繋いでいる写真まで掲示されていた。出先でパソコンの電池がもつかどうか、はらはらした経験者なら直ぐにでも買いたいだろう。

 スマート・フュエル・セル社のページでは細かな仕様が読めない。東芝が開発した燃料電池と型も中身は似ているようなので、そのプレスリリース「ノートパソコン用小型メタノール燃料電池の開発について」で、どんな電池か見よう。

 自動車用に考えられている電池は固体高分子型燃料電池(PEFC)で、固体であるため振動が大きい場所でも安定して使える。ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)はそれほど大きな出力は得られないもののメタノールを直接電池に供給し、化学反応を起こして発電する。「固体高分子型燃料電池では改質器でメタンやメタノールから水素を取り出し、燃料として利用しています。ダイレクトメタノール型燃料電池ではこの改質器が不要となり、直接燃料を供給できるため、小型化することが可能」になった。加えて「発電時に反応生成される水を利用し、最適な濃度に自動調整するシステム」にしたので、薄める前の高濃度メタノールで燃料タンクも小型化できた。

 東芝はさらに小型化を進め、10月に「手のひらサイズで1Wの出力を実現したモバイル機器用小型燃料電池の開発について」を発表している。手のひらに納まる小判型電池で、携帯電話でテレビ放送を長時間、視聴するといった用途が想定されている。こちらは2005年の商品化という。他社にも追随する動きがある。

 固体高分子型燃料電池は自動車向けに使われることから、本格的な量産に入れば大きくコストダウンできると期待される。家庭用にもと思われていたが、最近、別の型が有力になっている。「ダークホースの固体酸化物型(SOFC)」である。固体高分子型と違って、高価で資源量に限りがある白金を触媒に使わなくてよく、作動温度が800〜1000℃と高いため炭化水素系燃料から水素を取り出す改質が容易であり、排熱利用を含めたエネルギー効率が極めて高い。

 「従来、SOFCの最大の課題は、電解質のセラミックが温度変化を通じた伸縮により、割れてしまうという点にあった。そのため、稼動停止の少ない数百kwから数千kw規模の中規模発電用に開発が進められてきた」「しかし、『セラミック材料の開発や電解質の形状の工夫により、割れるという問題はほぼ解決された』(住友商事)ことから、北米ベンチャーを中心に家庭用など小型発電用への応用が見えてきた」

 この他にも開発されている型はいくつかある。自動車の固体高分子型がもたついていると、思わぬ展開になるかもしれない。空想の段階は終わり、商品として本物になってきたと言える。なお、歴史や基礎知識、応用例など全般的情報を仕入れるにはナノエレクトロニクスの「燃料電池」あたりを見て欲しい。(次項「自動車業界、21世紀の帰趨」へ続く)


8.目次 9.次項