自動車業界、21世紀の帰趨
資源エネルギー庁長官の下に置かれた私的研究会「燃料電池実用化戦略研究会」は2001年初めに意欲的な「報告」を取りまとめている。期待される導入目標は、導入段階の2010年で「自動車用約5万台、定置用約2.1百万kW」、普及段階の2020年では「自動車用約5百万台、定置用約10百万kW」である。
「燃料電池車試乗レポート--米カリフォルニアで世界の燃料電池車に乗る」は今年9月の一線の状況を、現地の集合した各メーカー、車種の写真付きで報じる。ガソリン車を追い越す走行ぶりなど、日本勢の意欲、頑張りぶりは明らかだ。その最後でホンダがこれまで使っていたカナダ・バラード社電池から踏み出したことを伝えている。
「2週間後、ホンダはこれまで市販車に採用していたカナダのバラ―ド・パワー・システムズ社製の燃料電池に比べて出力密度が上回る燃料電池を開発したと発表した。この新型燃料電池を搭載することで、FCXの航続距離は従来の355kmから395kmに伸びるという。加えて、燃料電池の材料の一部を炭素製から金属製にかえたことで、生産性も飛躍的に高まるメドがついたという」
トヨタは既に自社開発に踏み切っていた。バラード社電池はブラックボックスで中身が見えない。燃料電池車の中核部分を海外に依存していては、パソコンのCPUをインテルに依存しているのと同じで、出来上がった製品に差が出にくい。米国勢が頼るバラード社と切れる意味は大きい。
日米メーカーともに燃料電池車に熱心に見えるが、実は私は米国勢に本当にやる気があるのか疑っている。トヨタやホンダはハイブリッド車の技術を応用して蓄電池と組み合わせ、最も効率的に燃料電池を働かそうとする。ところが、GMなどは燃料電池単体で済ませる姿勢だ。長時間、高速走行することが多い米国では、ちまちまと蓄電したりする必要が無いと彼らは主張する。
そうだろうか。経済産業研究所・政策シンポジウムでの大聖泰弘・早稲田大学教授の発表「日本における燃料電池自動車の開発の現状と課題」はこう述べる。「燃料電池は効率が高いと一般に考えられているが、実際には低負荷の時に最も高い効率を示し、負荷が大きくなるとむしろディーゼルエンジンの方が効率が良くなってしまう。加えて化学反応なので環境の変化に非常に弱い」「ハイブリッド車の発想というのはエンジンを最も効率の良い状態で動かし続 けることにあり、改良の余地は大きい」
米ビッグ3には他にも問題山積なのだ。同じシンポでの米国側研究者による発表「アメリカ経済の健全性と自動車業界の現状、業界構造について」は米国自動車業界の問題点を語っている。「GMは、30年前と比べて垂直分業等を大幅に推し進めたことで生産性も大きく上がっている」「フォードは財務的問題に加えて本業も危ない。ボルボやジャガーに金を使いすぎており、工場への投資をあまり行っていなかったためである」「ダイムラークライスラーの合併はミスだったとしか言いようがない。移行期に何も進歩がなかったのが致命的である」
最も健全なGMがしていることは、従来のように部品を7割も8割も内製化するのを止め、日本勢に習って外注部品で済ませ、効率化する改革である。過去の何でも抱え込んでいた経緯から、GMには従業員1人当たり2.5人の退職者がいて、年金等負担が膨大になっている。米国アナリストによれば、ビッグスリーが公表している数字よりも年金資金の不足は400億ドルも多いという。
ビッグスリーは現在、本業よりも財テクで稼いでいるありさまだが、乗用車で押されまくってもピックアップトラック部門だけは独占的な収益源にしている。そこに日本勢が次々に参入を表明した。現地生産が定着した今、昔のように遠慮する必要はなくなったのだ。技術的に何の問題もなく、ビッグスリーの市場を奪うのは確実だろう。そして、このままなら未来の燃料電池車でも勝負は見えつつある。
ニューヨーク・タイムズの女性記者ミシェリーヌ・メイナードは新著「デトロイトの終焉」で、2010年にトヨタがGMを抜いて世界一になるとの未来予測を描いているという。私の連載第68回「日本の自動車産業が開いた禁断」と続編で日産が挫折した99年を描いて4年余り、またも勝者と敗者が入れ替わろうとしている。日本が開いてしまったパンドラの箱「競争社会化した地球」では、一時の勝者に永遠の安穏は保証されない。米国での日本車現地生産が拡大し続けてビッグスリーが衰えるのなら、摩擦となる雇用問題は発生しない。99年なら、まさかと思える近未来がそこにあるのかも知れない。(了)
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