イスラム、自爆テロそして自衛隊(20031116)

 小泉内閣が掲げていた自衛隊のイラク年内派遣が揺らいでいる。派遣予定地サマワに近いナーシリヤで11月12日に起きた、イタリア警察軍部隊への自爆攻撃で30人近くが死亡したためだ。悪いタイミングで来日したラムズフェルド米国防長官に対して、さすがに年内派遣を口にすることは出来なかった。現地で自衛隊員に多数の犠牲が出れば、内閣の基盤が弱体化し日米同盟そのものにまで響く可能性すら出てきた。次々と押し寄せるニュースに流されるままにせず、イスラム世界とその在りようについて、立ち止まって考えておきたい。

 三つの宗教は対立していなかった

 イスラムについて、理系だった私は板垣雄三さんの一般教養ゼミで学んだ。今、ネット上では実に大量の知識が得られる。中でも同志社大学では神学部・小原克博On-Lineの「インターネット授業」から、このテーマと関係が深い講義、宗教学「宗教と平和−紛争・抑圧を克服する道を求めて−」が選べる。普段の授業が公開されており、毎回90分がビデオで視聴できる。「イスラムと聖戦」「イスラームの世界−その多元性と多様性−」などを、ご覧になるとよい。文献にあたって読みほぐすより、少し時間はかかるが頭に入りやすいだろう。

 まずイスラム教は西側世界とは非常に異質な存在と思われがちだ。そうだろうか。ユダヤ教、キリスト教とイスラム教との関係について、この授業での岡真理さん(京大)の説明を書き留めるとこうなる。

 多神教世界の古代で最初に、万能の唯一神を掲げた一神教として現れたのがユダヤ教だった。ユダヤ人は間違ってそれをユダヤの民だけの神とした。2000年前に登場したキリストは、その誤りを打ち破って一神教を世界宗教とした。だが、キリスト教は預言者キリストを唯一神と混同、同一視する誤りを犯した。そのため神は7世紀になって再び預言者ムハンマドを地上に使わし、コーランによって本当の神の声を伝えた。従って、ユダヤ教徒もキリスト教徒も同じ神の啓示「啓典の書」を持つ民であり、イスラムに改宗する必要はない。

 実際に、イスラム教徒はイスラム教を「アブラハムの宗教」と考えており、このアブラハムとは旧約聖書に現れるユダヤ人の始祖のことである。

 エルサレムにはこの3宗教の聖地が隣り合っている。いまそこが火種になっているが、歴史的には千年以上もの間、エルサレムで3宗教は共存共栄してきたのであり、それが可能だったのは上述の理解ゆえだった。十字軍による「聖地奪還」はイスラム側からすると、大きなお門違いだったのだ。

 一橋大社会学部の「中東・中央アジアの社会と文化」1999年シラバス「聖典『コーラン』の思想(ウンマとは何か)」には、六信五行と呼ぶイスラム教徒の義務に続いて、アダムから始まって地上に神の国を実現しようとするイスラム共同体「ウンマ」への系譜が書かれている。このウンマが外敵の脅威にさらされた時、防衛ジハード「聖戦」が生まれる。それは成人男性の義務とされ、殉教者は最後の審判を受けることなく天国へ導かれるとコーランは記す。

 イラク戦争とその後の出来事を眺めていると、政治的にも軍事的にも八方塞がりであったフセイン大統領は、ジハードによる戦いに持ち込むために、敢えて早々に敗れたのではないか――との懸念がある。フセインが同郷者で固めた精鋭中の精鋭部隊「特別共和国親衛隊」は「約12,000人と見積もられ、装甲、防空及び砲兵部隊を有するという。これらは、14個大隊から成り、見たところ、各2,500人までの4個特別共和国親衛隊旅団に組織されたという」。これらバグダッドの守備に就いていたイラク軍精鋭は米英軍と一度も全力で対決することなく、膨大な武器を抱えたまま霧散した。輸送機やヘリを撃ち落とせるロケット砲も多数が消えた。(次項「世界中がホロコーストと化す」へ)


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