医療情報の大衆疎外が改まる日は(20020101)

 高齢化に伴って医療費が急増、政治問題と化し、それに隠れた形になっているが、適切な医療情報を個々人が知ることは非常に重要だ。英語でなら驚くほど多彩な情報をネットから手に入れられるのに、日本語では正直なところ貧弱としか言いようがない。2001年度中に厚生労働省の保健医療情報システム検討会が情報ネットワーク化計画を策定する予定であり、医療の世界にもIT時代にふさわしい動きがある。その中身は従来の大衆疎外から抜け出すものになるというが……。

 ロバート・ケネラー東大先端科学技術研究センター教授はPEGドクターズネットワーク「インターネットにもっと日本語の医療情報を」で「アメリカでオンラインショッピングが日常茶飯事であることは周知の事実だが、実際のところは、買い物をするため(47%)よりも医療情報を得るため(55%)にネットを使っている人の方が多い」と紹介している。

 さらにこうも指摘する。「なぜ日本のインターネット上の一般向け医療情報は遅れているのだろうか。まさか、政府や医療関係者は、患者が生半可な知識を持つことによって医師の威信が脅かされ、ひいては医療保険制度への経済的負担が増加することを憂慮しているとでもいうのだろうか。そうとは考えたくないが、仮に事実なら、それは無責任な短絡的な考え方で、実際のところ、そちらの方が憂慮すべき問題である」

 病院に対する広告規制は非常にゆっくりとしか緩和されず、ネット上では制約が緩いのに動きは少ない。こうした、知らせぬことに利ありとする姿勢から脱する時が来ようとしている。

 厚生労働省「第7回保健医療情報システム検討会」に出された「最終提言事務局原案たたき台」と長い「お断り」が付いた「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン 」は「IT化で5年後に医療がどう変わる」との観点を打ち出している。「医療機関に行く前に」はこう述べる。

 「現在は、医療機関を選択するための適切な情報が十分提供されているとは言い難い」「医療機関ごとの診療実績等のデータ分析や、医療機関相互の比較を客観的に行う環境が整ってくる」「診療記録等の一元的電子管理が進めば客観的分析は容易になることから、広告規制の緩和、公的な情報提供の整備、情報開示ルールの定着等と相まって、医療機関に関する比較可能な情報提供が進むものと考えられる」とし、「主要疾病についての正確な医療情報がインターネットを利用して自宅において手軽に手に入れられるようにな」るという。

 これらが可能になるには、医療機関の手の内をすべて明かさせねばならない。そうでなければデータの蓄積など不可能である。医療の世界の現実を知るほど無謀にも思える「夢」だが、実現できると考えられるなら、ぜひとも手を着けてもらいたい。(次項へ)


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