総選挙は対立軸無い2大政党で

 民主、自由両党の合併による新・民主党の登場で、自民と2大政党が並び立ち、小選挙区制導入が想定していた迅速な政権交代が可能になると言われている。今回の総選挙はその可能性を秘めるとマスメディアは持ち上げる。果たしてそうか。

 民主党は従来の選挙公約から進めて「マニフェスト」の形で経済再生、公共事業の見直し、補助金廃止、年金制度改革などに、たっぷり数字を盛り込んだ。集約版の7項目【5つの約束】【2つの提言】を読めば自民党と違うようでもあるが、細部まで見ると小泉改革と似通った印象も強い。テレビ討論の場で「小泉改革と何が違うのか」と問われて、民主党の岡田克也幹事長が「一番の違いはスピードだ。我々の方がずっと速い」と答えた点に全てが集約されている。

 鳩山由紀夫・前代表が小泉内閣登場で攻め所を失い、野党の役割とは何か不透明になったのに比べれば、菅直人代表の討論姿勢は見ていられるが、それでもはっきり違うのはイラクへの自衛隊派遣問題などだけである。どうやら、この2大政党には見かけと違い、対立軸は無いようだ。

 京都精華大教員の松尾眞さんが「『小泉改革』を中間総括する(下)」で、小泉政権とは対極にあった自・社連立、村山政権(1994-96年)を検証するために「55年体制とは何であったか」を考えている。支えたのは自民といっても橋本派であり、それが次の橋本政権(1996-98年)に繋がっていった。

 戦後の日本にあった政治的対立とは、欧米に見られる「大きな政府」VS「小さな政府」とか、「成長(拡大)志向」VS「環境(定常)志向」とかの対立ではなかった。高度成長が持続したために「55年体制とはじつは経済成長政治の体制であり、自民党VS社会党という『対立』構図は経済成長がもたらす拡大パイの分配をめぐる『対立』にすぎなかった」。高度成長が終わり、従来型経済運営が行き詰まり、市場原理主義が頭をもたげるとき「経済成長時代を通じて形成されてきた利権構造の護持を図る自民党の橋本派的勢力と経済成長のパイ分配に与ってきた社民的勢力とが、いわば反市場原理主義、反『小さな政府』の政治ブロックを形成することには、なんの不思議もない」

 この55年体制勢力は高度成長に便乗した、いわば受動的「大きな政府」派だったが、与野党いずれもで力を失った。政党の離合集散のあげく何が起きているか。「小泉改革』を中間総括する(上)」では、こう指摘する。

 「自由党は安保強化と市場原理主義の党である。他方、民主党」「のヘゲモニーは30代〜40代の若手グループに握られつつある。その若手グループの主流は自民党との修正協議を取り仕切り、有事法制成立を導いた前原誠司に代表される安保・国防力強化派、そして小泉『構造改革』の加速化を要求する市場原理主義派である」「民主党と自由党の合併は、与野党を横断して、<安保強化、市場原理主義>路線が主流化することを意味し、選挙での路線選択を可能にする野党が実質上姿を消すことを意味する」

 政党はほかにもある。公明党も共産党も。しかし、公明党について言えば、いかに高齢者を支持者に抱えているからとはいえ、坂口厚生労働相のお年寄りべったり政策で国民政党になれるはずがない。共産党は立てられる候補者の顔ぶれが、ますます貧弱になっていることが決定的だ。かつて支持層にしていた文化人まで失ったのではないか。社民党は語る必要もないだろう。

 無い物ねだりしても仕方がない。この選挙の構図で、無党派層を中心に心ある有権者の票はどう動けるのか。同じ市場原理主義の方向とはいえ、民主党は小泉首相と違って改革の中身、向こう側にある新しい姿を語る努力はしているが、十分に見えてはいない。国立大学法人法案をめぐる審議でも、私からすると、随分と的外れなところで騒いでいらした。もう官僚に頼れないと与野党とも思いつつも、政策の基盤になるアイデアを提供するシンクタンクを欠いている。郵政民営化にして、膨大な資金を集め財政投融資に振り向けてきた郵便貯金のシステムを変えたとき何が起きるのか。民主党がやっと考えねばと言い出した段階だ。こうしたアイデアを本来は誰が用意して置くべきか考えると、政策選択を貧しいものにした政治状況の一番の根っこは、アカデミズムの貧困であった。このままでは、大きな波乱要因があるとすれば、自衛隊年内派遣と直結するイラク治安情勢の劇的な悪化くらいなものか。(了)

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