音楽産業は自滅の道を転がる(20021129)

 コンパクトディスク(CD)の売れ行き不振が深刻である。ミリオンセラー連発が当たり前のように思えたのに、今年はアルバムで前年22枚の半分を大きく下回り、シングルに至っては、ようやく10月になって浜崎あゆみのシングル「H」が唯一ミリオンに認定された。日本レコード協会などの言い分では、音楽CDの不正コピーが大きく響いているという。果たして、そうか。90年代の音楽CDの売れ方は若い世代だけに依存した、とても特殊な構造をしており、音楽業界が安易にのめり込みすぎた結果、自家中毒を起こしているだけではないか。不況に強いとされた音楽産業。しかし、音楽文化を守り、育てる上で「戦略的な誤りを修正しなければ、自滅の道を転がり落ちるばかりだ」と警告したい。

 90年代に入るとCDが400万、500万枚と売れても社会現象にならず、家庭の団らんで話題にも上らない――この状況は何を意味するのか。第63回「若者・流行歌・音楽文化と著作権」で、こう解明した。1000万人足らずの団塊ジュニア世代が、音楽消費者の中に「分衆的な大衆」を形成した。メガヒットの消費はもっぱらこの分衆によっており、中高年層は加わらない。このため、かつてミリオンセラーが持った社会的なインパクトの大きさは失われてしまった。

 さらにメガヒットの質についてソキウス「音楽文化論・九〇年代日本の音楽状況」で、野村一夫・國學院大経済学部教授はこう指摘している。

 「注目すべきは、そのほとんどの曲がテレビ局とのタイアップだったことだ。高度なマーケティング技術に基づいて企画され、テレビを主軸にキャンペーンされた音楽」「映像主体のキャンペーンがこれだけ功を奏するとなると、ターゲットにされている今の若者が『ほんとうに音楽が好きなのか』と疑問をもたざるをえない」

 最近まで、この層が比較的自由になるお金を持っていたために、ここに依拠するのが商売として安全だと音楽業界は思いこんでしまった。そして、メガヒットを生まないような半端な部門は切り捨ててしまえ――と演歌などのリストラを進めた。携帯電話の爆発的な普及、多機能化で通信費が月に10,000円も必要になると、若者層の自由になるお金は乏しくなり、メガヒットが連発される基盤が突き崩された。音楽ソフトの国内生産額は1998年の6074億円をピークにして3年連続で減少、2001年は5030億円まで落ち込んでいる。

 音楽の質としても退化があるのではないか。メロディーラインの質といい、訴求力といい、今年は貧弱に思える。あまりに生硬な歌詞にしばしば愕然とする。草食性の牛に肉骨粉を食べさせるような、人工的な育て方が音楽の受け手も作り手の制作側も貧しくしていくと思えてならない。

 経済産業省による「音楽産業の現状と課題について」には、音楽CDにCDレンタル、コンサート、カラオケと併せた音楽ソフト産業全体の推移がある。

◆音楽ソフト市場
97年2兆1,170億円
98年1兆9,625億円
99年1兆8,345億円
00年1兆7,082億円

 不況が続いているからと言って、毎年千数百億円規模で縮小し続けるのには構造的な要因があるはず。音楽CDの不振による分は何分の一でしかない。カラオケ市場の縮小がもっと深刻なのだ。全国カラオケ事業者協会の「カラオケ業界の推移」には、カラオケ参加人口の推移グラフがあり、平成6年(1994)の5890万人をピークに平成13年(2001)の4800万人まで減り続けている。

 財布が軽くなった若者が、カラオケボックスから引いた影響もあろう。しかし、これだけ長く音楽業界が大人向けの歌を作ってこなければ、当然の報いだと、私は思う。今年、意外な形で数十万規模のヒットになった平井堅の「大きな古時計」は、高年齢層まで店頭で買っていくという。しっかりしたメロディと歌い込み。欠けているものがここにはある。NHK「みんなの歌」とのタイアップ効果とみるのは本質を捉えぬ見方だ。(次項へ)


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