これから依存すべきは中高年層なのに

 日本レコード協会には「音楽パッケージソフトユーザー白書」があり、毎年、継続して調査している。その最初のページ「調査の目的・調査設計」を見て、この人たちは何を考えているのだろうと思ってしまった。調査の目的は「音楽パッケージメディアの需要構造を世代間比較の視点と、トレンド分析的視点によって総合的に把握すること」にある。その世代が「中学生」「高校生」「大学生」「20代」「30代」「40〜55才」の6種しかない。56歳以上は調査対象ですらないのである。

 メガヒットに毒された業界人の傲慢が見える。2000年国勢調査から数字を拾うと、56歳以上人口は3697万人で29%もあり、56歳以上70歳までに限っても18%に達する。これを商売の検討対象から外してしまう。そのくせ本文では「40〜55才の中高年層の推定マーケットシェアが【21.8%⇒26.2%】と前年に続いて伸長」「資力のある現在の50代は若い時代に音楽鑑賞の楽しさを経験している世代であり、子離れに伴って音楽を聴く時間が持てるようになってきている」と分析している。少し数字が読める人なら、ここにない50代の後半から60代にマーケットの存在を直感するはずだ。

 ついでに本文から拾うと、音楽コピーで最近、CD−Rによるものが急増とされてはいるものの、実は「15%⇒24%」の増加程度にすぎない。従来から家庭内利用が認められている「MD:54%」「カセットテープ:55%」へのコピーが依然として主流である。コピーコントロールCD(CCCD)などが本当に有効か疑問である。

 UFJ総合研究所の調査レポート「潤沢な貯蓄が押し上げる高齢者の消費」がしている以下の主張は、昨今それほど珍しいものではない。

 「2001年時点では高齢者世帯1世帯あたりの現実の貯蓄残高は必要貯蓄残高を311万円上回っている」「高齢者の消費の中で伸び率が高いものには若者・中年型商品が多く、意外にも高齢型商品の伸びはあまり高くない」「余暇関連商品については、供給サイドが工夫して高齢者のニーズにあった余暇商品を提供することができれば、需要は大きく拡大する可能性を秘めている」

 音楽業界が中・高齢層に提供できるジャンルが「演歌」とは限らない。この世代はかつてビートルズで目覚め、グループサウンズ、ニューミュージックで青春を送り、LPレコードの形で音楽に親しんだ。現在も相当数を持ったままかも知れない。しかし、今となっては音楽CDが文句なく便利だ。私もレコードプレーヤーの蓋を何年も開けていない。子どもから手が放れ、お金と余暇を持ち始めた中・高齢層が膨大な音楽需要の塊に見えるのは、私だけだろうか。

 注意すべきは、それがメガヒットの世界でない点である。音楽産業はもともと工業的には多品種少量生産の典型のはず。ミリオンセラーを当てて濡れ手で粟をと望まないで、こつこつと需要と供給を結びつける努力をすれば道は開けると業界が気づかねばならない。

 多品種少量の商品販売を媒介するのに最適なのがインターネットであることも、もう読者は思い浮かばれただろう。ビデオリサーチネットコムによる「インターネット普及状況調査」でも中・高齢層でもはっきりネット利用の立ち上がりが見える。ブロードバンド常時接続が9月末で600万人を超え、毎月30万人以上増え続けている。来年末には1000万人になろう。機は熟した。

 音楽配信サービスは各社ほぼ出揃っている。いくつかの音楽会社にひとつの窓口から入れる「レーベルゲート」も出来た。見渡したところ、一部に昔のヒット曲も添え物として混じるが、依然としてメガヒット狙いが主体だ。悪く言えば、メガヒットを生む邪魔はしないようにと設計されている感じ。何十年もかけた、潤沢に持つ音源を本格的に生かすビジネスを考えた節はない。

 また、1曲200円とか300円とかのお金を払って入手した音楽を、パソコンか特定のMD機器でしか聴けない設定にしている点も、ゆったり音楽を聴きたいファン心理を理解していない。CD音質のままネットで提供するのではなく、何らかの圧縮を掛けた状態で売るのだから、もっと融通を利かせべきだ。ついでに言えば30〜45秒のサンプルで聞ける音質は薄っぺらく、音楽ファンを相手にしているとは思えない。

 INTERNET WATCHによると11月20日、米国の大レーベルUniversal Music Groupが「保有する4万3,000曲をオンラインショップや音楽関連のWebサイトからダウンロード販売することを発表」した。「価格は、米国内の利用者に対しては一曲99セント。アルバムは9.99ドル」と安価、CDへの焼き付けも出来る。保有音源すべてを販売する意向であり、「こうでなくては」と思うのは私だけか。 (了)

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