ではナノテクノロジーとは何なのか。大阪大学産業科学研究所・川合知二教授はフォーリン・プレスセンター講演「日本のナノテクノロジーの現状と展望」でこう述べる。
半導体のところで紹介したように、加工技術はミクロンの壁を突破、一桁下の100ナノメートルをも破ろうとしている。一方、わずか2ナノメートルの線でしかない遺伝子DNAを使って分子デバイスを作ることが可能になり、0.3ナノメートルの精度で思う分子を望みの場所にはめ込むことが出来るようになった。これを積み上げたマシンのようなものが考えられる。トップダウンの前者とボトムアップの後者、二つ流れからなる技術がもう少しで、10ナノメートル前後のところで融合しようとしている。
しかし、その融合が本当に完成するには、WIRED NEWS「ナノテクノロジーは本当に万能薬か?」が紹介しているスタンフォード大学の生物物理学者、スティーブン・ブロック氏の指摘が、巨大な壁として存在する。
「ブロック氏は、ナノテクノロジーに可能なことと不可能なことを冷静に評価した。ブロック氏の研究所は、レーザー光線をベースとした光学的トラップ、すなわち『光ピンセット』を使って単一分子の細かい動きを研究した草分け的存在だ」「『われわれには、うまく働く複雑な巨大分子の……設計方法がまったくわかっていない』とブロック氏」
「そうした機械を操作したり、自分たちで開発したりする前に、『生物学者とナノテクノロジー学者は、天然の機械がどのように働いているか解明する必要がある』とブロック氏は語った」
天然のナノ・マシン「生物」の解明こそ、ナノテクノロジーに必要なキーポイントなのだ。ところが、欧米に比べて生物学の研究態勢は貧弱を極める。ヒト・ゲノムの解読が終わった現在、生物の中で進行している微小過程すべてが解き明かされようとしている。それは薬品などにも応用されるが、同時にナノテクノロジーの起爆剤にもなる。
これから互角に戦うには「インターネットで読み解く!」第99回「土建屋国家からバイオ立国へ転進を」で示したように、遠回りでも現在の貧弱な理学部生物学科を大増強するしか道は残されていないと考える。
新エネルギー・産業技術総合開発機構が作成した「第1回ナノテクノロジー公開討論会(概要)」は産業界での予備アンケートの集計も示して、欧米との比較をしている。現在は日本も健闘しているが「将来においてはすべての産業分野で米国が最強と予測しており、米国の潜在技術力に対する危機感が感じられる」という。であるとすれば、なおさら逃げてはいられないはずだ。
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