テーマパークの明日と複合現実感(20011118)

 今年オープンした、ふたつの大型テーマパークが大変な人気を集めている。3月のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ=大阪。半年余600万人)と9月開業したばかりの東京ディズニーシー(千葉・浦安市)である。日経新聞の訪問者アンケート調査「友人に薦めたいアトラクション」によるとトップはUSJが「バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド」、ディズニーシーが「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」だ。いずれも有名なヒット映画を翻案した冒険ストーリー。

 私はまだUSJしか見ていないのだが、伝え聞くだけでもディズニーシーも感じは分かる。「何となく分かる」というのではなく、10年ほど前、科学部にいたころ、人間と機械システムの関係「ヒューマンインターフェース」技術周辺に関心があり、人工現実感(Virtual Reality=VR)の取材もした。当時いろいろな場面で研究者たちが取り組んでいたものが形をとって現れたと思える。それなら、現在までのVR研究を振り返ればテーマパークの明日も見えて来るのではないか。

 バーチャルリアリティという言葉を耳にしなくなって久しい。単純に立体感だけなら、家庭用ゲーム機の3D機能は、かつての大型コンピューターが束になっても届かないレベルにある。テレビの画面で遊んでいるから今ひとつ判然としないが、超大型画面や視野をすっぽり覆ってしまうヘッドマウンティング式の装置があれば仮想空間に没入してしまえるだろう。

 USJの人気アトラクション「ターミネーター2・3D」は、大型画面が3個も左右に連続して広がり、劇場そのものがすっぽり巨大なヘッドマウンティング式ディスプレイ(HMD)を思わせた。観客は3D眼鏡を掛けているから、空間を物が飛び交い、眼前まで際どく迫ってくる。1985年開催の筑波科学博で見た3D映像の興奮から、いかに遠くまで来てしまったか、感慨深い。

 新技術コミュニケーションズ発行誌「O plus E」(1998年3月号)にある田村秀行さんの「人工現実感から複合現実感へ」が、この間の事情を伝えている。96年に日本バーチャルリアリティ学会が発足するなど研究は活発化し、逆にVRそのものを特別な存在としなくなった。

 「『バーチャル』という言葉がごく当り前に使われるようになった。『バーチャル・カンパニー』『バーチャル・スタジオ』『バーチャル・モール』等々である。かつては,情報処理分野でも『バーチャル・メモリ』くらいしか耳にしなかったから,ほぼすべてVRブーム以降の産物である。いかにコンピュータのパワーがアップし,物理世界を電子的に代行できる対象が増えてきたかが分かる」(次項へ)


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