昨年6月に東大大学院の教官から国立大学協会に出された「若手研究者をめぐる状況とその改善についての意見書」は「この10年で教官一人が指導するべき大学院生数は、ほぼ2倍になりました。さらに、重点化にともなって助手のポストを教授・助教授のポストに振り替えたため、若手研究者の就職口でもある助手のポストが減少しています」とし、「オーバードクター・オーバー『ポスドク』問題がより深刻化するのは、実はこれからだと考えられ」「事態を打開するため」「大学院重点化の功罪を明らかにすること」「ポスドク全体の実態調査を」国大協に求めている。

 心ある人たちは早くから気付いていて、いろいろなところで発言している。ネット内を検索すれば直ぐに見つけだせる。しかし、何か変わったのか、と問われれば否定的にならざるを得ない。

 2001年からの新しい「科学技術基本計画」は、この問題をどうしようと考えているのか、該当部分を探そう。

 「ポストドクター等1万人支援計画は、数値目標が4年目において達成され、我が国の若手研究者の層を厚くし、研究現場の活性化に貢献したが、ポストドクター期間中の研究指導者との関係、期間終了後の進路等に課題が残った。また、任期付任用制度、産学官連携の促進のための国家公務員の兼業緩和等の制度改善を行ったが、現在までの人材の流動性の向上は必ずしも十分ではない」

 この反省はよしとしよう。ではどうするのか。

 「若手研究者は任期を付して雇用し、その間の業績を評価して任期を付さない職を与える米国等におけるテニュア制は、米国等での研究開発環境の活性化の源と言われる。我が国も、将来に向けて、このような活力ある研究開発環境を指向し、30代半ば程度までは広く任期を付して雇用し、競争的な研究開発環境の中で研究者として活動できるよう、任期制の広範な定着に努める」

 教授の独裁的支配でない米国の研究のあり方を習って「研究に関し、優れた助教授・助手が教授から独立して活躍することができるよう、制度改正も視野に入れつつ、助教授・助手の位置付けの見直しを図る」ともあるが、いずれも弱々しい。

 現在ある、教授会の自治をひっくり返さずには不可能なことなのに、実行しようとする意思が見えない。昨年の東大定年延長決定さえ止められないでいて、出来ようはずもない。評価のあり方についてもいろいろと語られているが、私には「茶飲み話」くらいにしか読めなかった。敷かれているのは、サイエンスの世界にあるまじき封建制なのだ。明確な改革の表明なしに事態は動かない。

 ウェブ「東大の定年延長は本当に大学を活性化させるのか」にある黒川清・東大名誉教授のコメントを引用したい。大学人の真摯な反省もないまま惰性でここまできた現在、なまじの手直しなどで済む問題でない、ことの根深さ、広がりが指摘されている。

 「日本の国立大学の教授は、一方で身分の保護とフルタイムの給料の上に企業との兼業を要求しながら、他方で若い教官に対しては任期制を検討するなどというおかしなことをやっています。日本のエリート構造と精神が腐敗してきていると強く思います」「こうしたことが下位組織のモラルの低下に影響を与え、鉄道のコンクリート事故、ロケットの失敗、警察のスキャンダルなどにも関係しているのだと思います」 (了)

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