木枯らしの季節が来た。寒い朝は血圧が高くならないか、気になる方もいらっしゃるだろう。今回は世間で言われる、塩分摂取は高血圧を起こす――という常識について考えたい。厚生労働省の「健康日本21ホームページ」は新世紀の栄養摂取目標として、脂肪と塩分の摂取を減らそうとしている。27〜28%にもなる「20〜40歳代の1日あたりの平均脂肪エネルギー比率の減少 目標値:25%以下」と、13グラムある「成人の1日あたりの平均食塩摂取量の減少目標値:10g未満」を同時に掲げている。どちらも結構な目標のように見えるが、以前から両立するのか気になっていた。前者は油脂摂取で満足する食生活欧米化への抵抗であり、後者は油脂摂取を減らすことを可能にしてきた日本食文化へのいわば「否定」だ。
実は、減塩しても血圧が下がらない人が多数派だった。
2000年12月に日本医学会シンポジウム「高血圧の診断と治療」があった。「高血圧=食塩過剰」説一色だ。例えば家森幸男・京大教授は「 2.高血圧性疾患の生活環境因子―世界調査からみた食環境の重要性―」で「食塩の摂取量を下げていくと、ほぼ1日6.3グラムで脳卒中発症がゼロになる。このことからWHOのいう1日6グラムがやはり食塩摂取の目標として正しいと考えられる」と断定してしまう。最近では、この数字を安易に生活の目標にしてしまう「知ったかぶりの情報源」が増えている。これでは通常の食品に含まれる分でいっぱいになりかねない。
遺伝的に高血圧を起こすネズミが京大で開発され、それを対象にした実験がベースになっている。発表後の質疑で人間について実験はないのかと尋ねられて、紹介された実験結果に笑ってしまった。実験には医学部の学生からボランティアを募ったという。黒人と日本人、ブラジルの白人である。「ブラジルの白人は代々食塩をとり慣れていますので、高食塩に対しても平気で、食塩の摂取量も日本人以上です。それで1日3グラムの減塩食から21グラムの高塩食に切り替えたところ、1週間で血圧が上がったのは黒人だけでした」
自然の食べ物に人工的に食塩を添加する習慣がなかったマサイ族にはほとんど高血圧患者がいなかったが、食塩を使うようになると血圧が上昇した。この医学部の黒人も、やはり食塩に対する抵抗性を持たなかったのだろう。米国に奴隷として移された黒人の子孫も同様な傾向にある。塩分への抵抗性はかなり長時間かけて形成されたものらしい。遺伝子の問題は現在、解明の途上にあって、どのような遺伝体質なら塩分摂取で血圧がるのか、よく分かっていない。
1988年の塩分摂取に関する国際共同調査「インターソルト・スタディ」が、タケヤみそのホームページで紹介されている。商売柄取り上げた面もあるが、内容は曲げられていない。
世界52カ国で調べた、横軸に尿中のナトリウムと縦軸に高血圧罹患率のグラフは、両端部を除き中央に位置する大半の国でばらばらにプロットされるばかり。「1日3グラム以下くらいの極端に食塩摂取の少ない民族では高血圧がほとんどないことと、1日30グラム以上のような極端に食塩摂取の多い民族では高血圧が多いことは明らかになりました。しかし、その中間に属する大多数の民族については、食塩摂取と血圧の相関関係は認められませんでした」(次項へ)