亡くなられた名古屋市大の青木久三教授は、先に述べた高血圧ネズミを京大で開発した一人だ。同門の家森教授とは異なって、高血圧の大半を占める本態性高血圧は塩摂取とは無関係とする立場をとり、『減塩なしで血圧は下がる』という本も書かれていた。生前にお会いしたとき、減塩強制による負の面を問題視されていたことを思い出す。

 食塩感受性の高血圧患者は確かに一部に存在し、この場合は減塩が重要であることは疑えない。しかし、無意味な減塩も一方で存在していて、極端な場合は日々の生活の中で「やる気」が失せてしまう。いわゆる無気力状態である。性生活も含めて、そうなのだという。

 元弘前大医学部の佐々木直亮教授は著書「食塩と健康」をネット上で公開されている。立場は正統派なのだが、「17 食塩説に対しての反論」などの章で青木教授らの反対説も丁寧に紹介されている。国内外でかなり多数の異説が出ていることが見て取れよう。

 また、同書「18 人によって違う食塩との関係」では自らの調査結果としてこんなデータも示している。

 「一地域内の夫婦・親子の血圧について」「親子・兄弟姉妹の血圧水準間には有意な相関があることが認められるのに、一方結婚後同じ家に長年住み、同じような生活を営み、食塩摂取量にも相関があると考えられる夫と妻の血圧の間には相関関係がほとんど認められていない」

 過去の東北地方などにあった1日数十グラム摂取が解消された現在、食塩の問題よりも、体内で対抗するカリウムの摂取をどうするのかがもっとクローズアップされるべきだ。生体の細胞内を支配しているカリウムは、細胞外支配のナトリウムと拮抗している。カリウムが十分に摂取されていれば、余分なナトリウムを排出させてしまうことが昔から知られている。ただし、野菜や果物に多いが、水に溶けやすく熱に弱い。

 藤田敏郎・東大教授は日本医学会シンポジウムの「生活習慣の修正」で、カリウムは「食塩による血圧上昇に対して降圧効果が著名であり、食品加工の過程において食塩が添加されカリウムが失われてゆくことが、文明化に伴う高血圧の頻度増加の一因と推定されている」と述べている。

 カリウムはナトリウムの3分の1以上の摂取が望ましいとされている。魚ではサケの焼き物もカリウムを510ミリグラム含んでいる。1.5%程度の薄塩ならば塩ざけ単体でもカリウムはオーケーだし、野菜から追加できれば、もう少し塩分が濃くてもよいことが知れる。市販の塩辛いサケなら2%の食塩水に2時間くらい浸けて食べれば十分に味も楽しめ、健康にも良い。

 適度な塩分で気分をしゃきっとし、生活の質・食の満足感を確保しつつ、肉食中心に比べ環境や資源への負荷が少な目な日本食で賢く生きていく方法を、自らの食生活で見いだしていただきたい。 (了)

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