コンピューター中央処理装置(CPU)のトップ企業インテルは3月半ば、「世界初、1 平方ミクロンの SRAM セルを開発」で、90ナノメートル(nm)幅の回路製造技術が実用になることを証明した。100nm、つまり1千万分の1メートルを切る技術で造られるCPUは、来年には現在の最高機種「ペンティアム4」後継として家庭でもオフィスでも実際に使われることになる。
20年前には100nmは回路技術の原理的な限界と考えられる数字だった。それが破られたとはいえ、限界が見える地点に間もなく到達することに違いはない。科学技術史上で画期的な時期に至って、国内半導体メーカーに元気がないばかりか、20年前の技術予測「ハードの進化が止まる時はソフトウエアが主流の時代」に対する備えも出来ていない。薄ら寒い日本の現実をここで確認するしかないとは、いささか辛い。
半導体の世界の進歩は「ムーアの法則」が支配してきた。インテル創設者の一人ゴードン・ムーア博士が唱え、「半導体の性能と集積は、18ヶ月ごとに2倍になる」というものだ。この進歩は、どこまでも際限なく進むものなのか。実は45nmが可能と発表した際に、インテルは絶縁膜の厚さが0.8nmしかなくなることを明らかにしている。
0.8nmは原子3個分の厚さでしかない。従来、10原子層は必要と考えられていたのに、2000年に米ベル研究所が「6原子層、厚さにして1.5nm程度まで信頼性を維持できる可能性がある」とした。30nmプロセスに至って絶縁膜として現在の二酸化シリコンを諦め、「高誘電率ゲート絶縁膜」と呼ぶ新材料に変更せざるを得なくなったが、この材質はまだ決定していない。10原子層程度まで小さくなると、物質が古典的な意味での固体と言えなくなり「揺らぎ」のような性質を示し始めると考えられ、20年前にはそれが原理的な限界になると思われていた。3原子層で電子の漏れを止める――絶縁可能とする発表に、実は私はまだ半信半疑である。
ペンティアム4の現在の最高モデルは2.2ギガヘルツ(GHz)版。毎秒22億回の計算処理をする。2007年や2010年にはテラヘルツ動作のトランジスタを集積することで、20GHzないしは200GHzの性能が目論まれている。従来型半導体なら、このあたりまでに限界があると考えたい。
この性能で集積回路を実際に製造するには、現在の光による焼き付け方式は使えなくなる。波長が100nm以上もあって、30nm幅の回路が焼き付けられないことは容易に理解されよう。極短波長10nm級の極紫外線、あるいは電子線で焼き付けるしかなくなり、空気で吸収されないようプロセスすべて真空下という具合になる。全く新しい工程の工場は巨額の投資が必要になり、世界で限られた数のメーカーしか持てないと予想される。(次項へ)