環境ホルモン問題は終わったのか(20020919)

 環境ホルモンについて6月半ばに重要な記者発表が環境省であった。それを巡って大学の専門家から「新聞報道はおかしいのではないか」との疑問が投げかけられている。

 「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」との関係で、中西準子・横浜国立大教授による「雑感184 -2002.7.8『SPEED'98、事実上自己崩壊か?』」はこう言う。「今回の環境省発表は、事実上、SPEED'98が引き起こした環境ホルモン問題の終焉を意味するものだったのである」。それなのに、「4−オクチルフェノールを環境ホルモンと確認」ばかりが流され、肝心の部分が報道されていない。「明日から、新聞やTVは、こういう枕詞『微量でも影響がある疑いがあるとして環境省が選んだ67物質』をつけてはいけないということを、理解しているだろうか」――と。

 問題の発表資料は長い名前で、6月14日付の「平成14年度第1回内分泌攪乱化学物質問題検討会について (内分泌攪乱作用に関する有害性評価結果(人健康影響、生態系影響)について)」である。

 「1.人健康影響(哺乳類)に関する有害性評価の結果」として、トリブチルスズなど10物質について「低用量(文献情報等により得られた人推定暴露量を考慮した比較的低濃度)での明らかな内分泌攪乱作用は認められなかった」 と、まず報告。

 さらに「2.生態系影響(魚類)に関する有害性評価の結果」として「4-オクチルフェノールについては、[1]魚類の女性ホルモン受容体との結合性が強」いなど「魚類に対して内分泌攪乱作用を有することが確認された」とある。

 ところが、新聞各紙は翌15日の紙面で「2.」の4-オクチルフェノールがノニルフェノールに次いで環境省によって認定された2番目の環境ホルモンであることしか伝えない。

 「市民のための環境学ガイド」の「各紙の環境ホルモン報道」で、安井至・東大教授が各紙の報道内容を付き合わせて論じている。

 「4−オクチルフェノールのメダカへの影響は、本当は、刺身のつまのようなもので、伝えるべき内容は、むしろ1.の方だ」。とすればSPEED'98計画で「あれほどの金(300億??)を掛けて検討した結果が、新聞に無視されてしまっては、社会的に大損失だ。なんとか、きちんとした報道が行われることを保証するシステムはないものだろうか」となる。

 読売、毎日、日経、朝日と並べられた記事はトーンがそっくりである。私は環境省の記者クラブとは無縁であり、どのような発表がされたのかは知らない。不思議な感じを抱いてネットを歩き回るうちに、環境省の外郭団体とも言える「EICネット」の国内ニュース「4−オクチルフェノールの魚類に対する環境ホルモン作用を確認」を見つけた。

 「平成14年6月14日に開催された環境省の『内分泌攪乱化学物質問題検討会』で、4−オクチルフェノールが魚類に対して内分泌攪乱(環境ホルモン)作用を持っていることが確認された。 内分泌攪乱作用が確認された物質は平成13年に確認されたノニルフェノールに次いで2例目」と始まる前文の書き方に、各紙一致しているトーンの原型を見た思いだった。

 理解し、評価するのにかなり専門知識が必要な「原・公表資料」に添えて、解説的な趣旨を持ち、さらに言えば環境省側の情報操作で「こう理解して欲しい」と持っていきたかった方向が盛られた資料があったに違いない。なぜならEICネットは「国立環境研究所の環境情報案内・交流サイト」であり、専門知識を欠いている人が担当しているはずがないのだから。(次項へ)


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