今回の発表にある10物質では人への影響は考えられないというのだから、どんな試験をしたのか、具体的に見よう。「内分泌攪乱化学物質の人健康影響評価のための試験体系の概況」によると、今回の結果が日本独自開発の『げっ歯類を用いた1世代試験』(以下、1世代試験)に依存していることが分かる。
ラットの妊娠0日から、ほ育21日まで物質投与を続け、母子の行動を観察した後で解剖している。観察項目は「文献調査結果を参考に、物質ごとに検討」とある。何を観察したのか追跡しよう。
フタル酸ジ-2-エチルヘキシルの場合は、血中ホルモン量の測定はもちろん、子の発情回数、交尾率、受胎率などの測定を経て、交尾後に雌を帝王切開し着床数や胚の状態などを見る。雄の場合は交尾後にやはり剖検し、精子数などを調べている。
これだけ調べれば十分なのか。私の第49回「性差の科学と環境ホルモン」を読まれた方なら「そんなに単純な話だったのかい」と思われるに違いない。雌雄、男女の間にある、もっと微妙なものが揺さぶられていないか。最近の例では毎日新聞が取り上げている「環境ホルモン:微量のBPAでマウスの子育て行動が減少」(2002/7/13)である。「ビスフェノールA(BPA)を妊娠中のマウスに与えると、生まれた子に、子育てに熱心でなくなるなどの行動変化が生じることを、米ミズーリ大のフレデリック・フォンサール教授らが13日までに、実験で確かめた」というものだ。
環境省が今回行った試験には、子の動物が子育てをする際の行動観察は含まれない。それまでに殺してしまうのだ。
「内分泌攪乱化学物質問題への環境庁の対応方針について−環境ホルモン戦略計画SPEED'98−」では「2.スクリーニング・試験法について」で各国で様々な開発が行われていて「次世代への影響を評価するといった一連のプロセスが考えられている」と記している。「げっ歯類を用いた1世代試験」を独自開発して人への影響をみるのに十分であるとする根拠が分からない。
日本が責任を持って「この10物質は人間には無害ですよ」と世界に宣伝できる中身ではないと、私は思う。環境省も本音ではそうなのではないか。巨費を投じて始めてしまった試験計画をいまさら元に戻せない。それが今回の発表にまつわる不思議の原因だとみるのは穿(うが)ち過ぎだろうか。(了)
▼ご感想はメールで