95年の喫煙率反転上昇はなぜ
平成7年(1995年)は「たばこ行動計画検討会報告書」が出されて、たばこ問題へ行政が始動した年として記憶される。ところが、この年、減り続けていた喫煙率が急に反転上昇してしまう。男性では20代から50代まで、女性でも20代と30代に顕著だ。例えば男性20代は前年の45%が60%に、30代は51%が60%にと激しく立ち上がってしまった。
何が原因だったのか。最近、看護職の皆さんをめぐる報告や議論を見ている内にはっと気付くものがあった。
日本看護協会の「看護職の喫煙対策」によると、医師の喫煙率は一般人よりも低いが、医療を支えるもう一つの柱、看護職の喫煙率は高く、女性に限れば一般の2倍「24.5%」にもなるのである。もちろん、病院でたばこを吸う看護職は少なく、多くの方は職場を離れて吸っている。しかし、医療知識が豊富な人たちがなぜ?
「看護学生、新人看護婦の喫煙行動要因」は、その心理の内を明かしてくれる。
「看護職になってよかったと思っている新人看護婦の喫煙者割合は思っていない者に比べ有意に低く、同様に看護学生になってよかったと思っている看護学生の喫煙者割合も思っていない者に比べて低かった。また、仕事上の悩み、職場での配置換えを希望する、給料が少ないといった質問に対して大いにあるまたはハイと答えた新人看護婦では喫煙者割合がそれ以外の解答をした者と比べ有意に高かった」
たばこの害を知識として知っている看護職でも、自分を取り巻くストレスの高さには負けてしまうのだ。
では問題の95年に何があったか。広告景気年表「1995年」が10大ニュースとして掲げる、年明けの阪神大震災、オウム真理教による猛毒サリン散布事件、金融機関の破綻、さらには1ドル=80円台の超円高――安全な国=日本の「神話」が様々な面で一挙に崩れ去った。
「喫煙習慣者の年次推移(性・年齢階級別)」(平成13年国民栄養調査)をみると、喫煙率がその後は国民全体としては下がり、95年に反転上昇する前、94年の水準に近くなっている。しかし、下がったのは高齢層がたばこを止めたからであり、01年でも若い世代は上昇した分をほぼ保っているように見える。
喫煙%20代 30代 40代
男94 45.1 51.2 46.4
01 58.9 58.1 58.4
女94 12.7 11.0 9.9
01 16.1 16.0 11.7
今の20代には就職難というストレスも加わっている。喫煙率を下げるのに、この国では理を説いて十分とはいかないのである。おそらく自己責任を欠いた行動を社会全体が見逃しているからだ。兵庫県立健康センター長、河村剛史さんの講演「あなたは愛する人を救えますか?」では日米の禁煙教育を比べて、こう説かれいる。
「アメリカでは心臓突然死が非常に多いことと、その原因は心筋梗塞です。『君たち、心筋梗塞の中の原因は何か知っているか』と尋ねて、みんなにタバコと言わすのです。『そうです、タバコが心筋梗塞の大きな原因だから、君たち大きくなったらたばこを吸うな』と言うのかなと思ったら、『このことを十分知ってたばこを吸いなさい』と。だから、アメリカでたばこを吸っている人は根性があるのです。死ぬためにタバコをやっているわけですから。だから、日本でたばこを吸う人は、死ぬということを意識して吸っているのだったらOKです。でも、倒れた途端に『助けて』と言うのであれば、それは吸う資格はないということになります」
なお、看護職の喫煙について海外の状況はどうだろう。こんな報告を見つけた。1997年の週刊医学界新聞「イギリスの看護職 その実像」は「長年,医師の喫煙率が低いのに対し,看護婦の喫煙率は一般の人よりもずっと高かった」「しかし今回の調査では14.3%で,国民の平均である28%の約半数であった。医師と同じように国民の健康を増進する専門職としての強い自覚が出てきたものと思われる」と伝えている。 (了)
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