たばこ依存脱せぬ日本人を考える(20030614)

 6月発表の平成14年人口動態統計で、男性の肺癌死者が初めて4万人を超え、注目されている。後で詳細に見るが、人口当たりの死亡率は半世紀で驚くべき上昇ぶりを示す。私の連載では「世界常識と離れすぎ たばこ健康被害をめぐる国内」で、たばこ問題を取り上げている。男性の喫煙率は下がったとは言え先進国中で異例に高く、若い女性の喫煙率は上がっている。最近、公共の場や職場などでの受動喫煙防止から禁煙化が急ピッチで進み始め、人口動態統計に出る明白な健康被害があるのに、日本の喫煙者はたばこ依存から脱せない。今回は「タバコは悪」と糾弾するのではなく、喫煙者寄りに視点を置いて、依存の内実を探ってみたい。

 肺ガン死亡率上昇の深刻さ

 人口動態統計「表8悪性新生物の主な部位別にみた死亡数・死亡率(人口10万人対)の年次推移」によると男性肺ガン死者41,115人の絶対数もさることながら、死亡率が1955年(昭和30年)の「4.3」から10年置きに「11.2」「19.6」「35.3」「54.8」そして昨年は「66.8」と加速度的に上昇している。2005年には「70」に達するだろう。半世紀で18倍だ。

 女性は男性ほどでないが、大腸ガン「26.5」と肺ガン「23.7」が現在トップの胃ガン「27.0」を猛烈に追い上げており、間もなく胃ガンを抜き去るはず。

 昨日のたばこが今日がんに結びつくのではなく、喫煙10年、20年をへた中高年世代の死者増加となって現れる。たぼこが大量に含む発ガン物質は肺ガンに限らず、他部位のガン発生にも影響している。肺ガン急増は端的な指標だが、全てでない。心疾患などへの悪影響も大きい。

 たばこを好んで吸っている本人の病気は自業自得だが、受動喫煙になる周囲はたまらない。ニューヨーク市がついに3月末、バーやレストランを同市内では全面禁煙にする新たばこ規制条例を制定した。

 手ぬるかった国内でも4月の健康増進法施行により、厚生労働省から「受動喫煙防止対策について」が出された。「分煙効果判定基準策定検討会報告書」概要が添付されており、「屋内に設置された現有の空気清浄機は、環境たばこ煙中の粒子状物質の除去については有効な機器があるが、ガス状成分の除去については不十分であるため、その使用にあたっては、喫煙場所の換気に特段の配慮が必要である」と現在の分煙施設ではダメだと指摘した。漫然と空気清浄機さえ設置しておけばよい状況は認められなくなり、全面禁煙に向け圧力が強まった。

 健康増進法第25条対象施設は「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店」が明示されているほか、その他施設として「鉄軌道駅、バスターミナル、航空旅客ターミナル、旅客船ターミナル、金融機関、美術館、博物館、社会福祉施設、商店、ホテル、旅館等の宿泊施設、屋外競技場、遊技場、娯楽施設」まで含まれる。

 喫煙者に対する包囲網は確実に強化されているのだが、喫煙人口の減少は、はかばかしくない。 (次項「95年の喫煙率反転上昇はなぜ」へ)


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