活魚ブームと生き絞め・生け絞め
実は殺し方・絞め方によって死後硬直に差が生まれ、食肉としての商品価値に響く。「ブロイラーの肉質に影響を及ぼす処理要因」に鶏について過去の研究がまとめられている。20年ほど前の実験が「電気ショックによって失神させた鶏の胸肉の方が、失神させないで屠殺した鶏のものより、屠殺後24時間の剪断強度が約30%少なく、軟らかい肉であったこと」「死後硬直の開始が遅れたことを示した」。その後、失神のさせ方もアルゴン混合ガスを使うなど、よりソフトな方向に工夫が進んでいる。
こう紹介したのも、魚好きな日本人にとって魚の「絞め方」が大きな問題になっているからだ。生で食べることが多いからこそ、鶏以上に神経質にならざるを得ないデリケートさがそこにある。
第一田之浦吹上漁協の児玉勝孝組合長による講演集「瀬戸内下津井 魚のはなし」に「魚のはなし16 魚の食べごろ」がある。活魚と鮮魚の二つの呼称について「活魚は生きているものを含めて死後硬直までの魚をいい、鮮魚は死後硬直から柔らかくなって腐るまでを言います」とのこと。死後硬直に関係し分解された「ATPはやがてイノシン酸といううまみ成分(カッオ節のうまみ)になります。死後硬直ののち細胞中の酵素の働きでたんばく質が分解されると自己消化(熟成)が進み、柔らかくなってくる一方でアミノ酸やペプチドなどのうまみが生まれて来ます。このころうまみ成分が一番多くなる」と述べる。
かつての活魚ブームの目新しさは薄れ、活魚で食べることが当たり前のようになった。しかし、この歯ごたえ満点の時期には、実は旨み成分は十分ではない。時を待てば旨み成分は増すが、失われる歯ごたえとの得失関係で、どこで折り合いを付けるかが料理店ごと、板場の判断になる。
そしてさらに、魚に特有の「生き絞め」あるいは「生け絞め」と呼ぶ技術が登場する。俗に「鯖の生き腐れ」とも言われようにサバは鮮度が落ちやすい。ところが、大分・佐賀関の関サバや土佐の清水サバといった有名ブランド化したサバは、手間暇かけてもペイするため、収穫してから数日は生け簀で飼って魚の興奮をさまし、生け絞めにして出荷するのが常識になっている。死後硬直時期が延長されるからだ。
生け絞めの方法について、カツオで詳述しているページを見つけた。コナトローリングの「魚場から自宅まで、カツオを生きたまま持ち帰る方法(2)」である。要点を言えば頸部動脈から脊椎を一気に切断し、腐って生臭くなる血も抜いてしまう。さらに冷やして毛細血管まで収縮させたら完璧だ。「こうして6時間位で自宅に帰ってもカツオは生きたままの状態で、まな板上にのせて包丁を入れますとカツオの身の一部がピクピクと動いているので筋肉がまだ生きているのがよくわかります」ということになる。
魚について死後硬直を延長するばかりではなく、積極的に起こす手法も我々には馴染みである。「洗い」がそうだ。
備後日記の「活け魚をいただこう!」は前述と違い、活け魚を死後硬直を起こしていない状態と定義していて「活きた魚では”洗い”を作ることが出来ます。”洗い”とは身が活きたお刺身を一気に氷水で冷やして死後硬直の状態にすることです」「活きた身を一気に氷で絞めることで、瞬間的に身が締まりコリっとした歯触りが生まれます」と指摘する。
練り製品を作る際に塩を入れ魚肉を混ぜ合わせるのは、アクチンとミオシンを結合させるためだから、ここにも関連がある。
このほか、魚を絞める前に生存できる限界まで水温を下げて、鮮度維持時間を3倍に延ばす「魚介類の鮮度維持についての研究」のような仕事もネットに現れている。生体にストレスを与えない配慮であり、鶏のガス失神法と一脈通じるものがある。周辺に広がっているバリエーションを見ると、食べ頃と死後硬直との関わりは面白いほど広く、深い。(了)
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