マニュアル漬け日本、狂牛病騒ぎに見る油断の蔓延(20011027)

 牛肉消費の大幅な落ち込みにまで発展した狂牛病騒ぎ。罹患した牛を8月に初めて見つけて以来、焼却処分と発表しながら肉骨粉製造に回すなど、行政側が不手際を続けたことが消費者の不信感を増幅した。「安全です」と宣伝しても信じてもらえなくしてしまった。これは例外的な事件なのだろうか。

 優秀な官僚組織が仕切ってきたはずの、この国の本当のありようは、実は前例踏襲型マニュアルに忠実に対処していただけではないのか。マニュアルと字面さえ合わせておけば注意義務は果たせる――そうして逃げを打ってきた官僚たちの頭上に、最近、大きな重しが載せられた。9月の薬害エイズ裁判・東京地裁判決は元厚生省生物製剤課長に「不作為の過失」を認定したのだ。

 そして、狂牛病では国研究機関の質も問われた。

 クロ認定した牛の処分に、どの役所も責任を持たないで、肉骨粉に加工してしまう不始末が最もクローズアップされている。しかし、最初の狂牛病認定の部分にこそ、この国に蔓延している油断の典型があると思う。農水省プレスリリース「牛海綿状脳症(BSE)を疑う牛の確認について」にいきさつが詳しい。

 8月6日、起立不能の症状を呈した千葉県飼育の乳用牛から食肉処理場で脳(延髄)を採取して、動物衛生研究所に送った。8月15日に「動衛研では、BSEの確定診断法の一つであるプリオニクステストにより陰性を確認」。ところが8月24日、千葉県は通常の「病性鑑定検査として実施した病理組織学的検査で脳の組織に空胞を認めた」。スポンジ状の穴があいていたのだからと、9月6日、再び動衛研に資料送付、9月10日になって「免疫組織化学的検査を実施したところ、陽性の反応を得た」。

 現在は独立行政法人となっている、この国立研究機関は釈明の必要を感じたのか、10月1日に記者会見し、その内容を「牛海綿状脳症(BSE)サーベイランス事業と動物衛生研究所」で説明している。言い訳の後に、しかし、「この診断に至る一連のプロセスは,国と県が一体となった診断体制が有効に機能したことを示すものです」との自賛はいただけない。1カ月以上も経過し、やっとクロ判定に至ったのを棚上げにして失笑を買うだけだ。

 プリオニクステストは、スイスのプリオニクス社が開発した検査法である。9月26日、社長自ら動衛研を訪れて同社検査キットを使いながら陰性になった原因を話し合った。「検査の全般にわたって技術的検討を行いましたが,検査結果が陰性になった原因についての結論はでませんでした」と、動衛研側は主張する。が、同社マニュアル指定と違う脳の部位を検査に使ったと、早くから指摘がされていた。同キットを導入する際に「使い方を指導しようか」と問われて、「研究用だから結構」と答えたとも聞く。 (次項へ)


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