一連の経緯を知ると、この研究機関の人たちは判定システムを現実に合うよう調整する「キャリブレーション」が判っていないのでないかと疑いたくなる。「違う部位でも検査に使えるとの報告が出ている」からと、勝手に変更して検査してしまったようだ。

 検査キットを作るとき、何よりも重要なのは判定が正しくできる事である。反応の感度が高いだけで良い検査法とは言えない。採取する資料がばらつかないよう考え、安全率をどのくらい見込んだらエラーを十分低く抑えられるか、キットを作った人は陽性と陰性の境目を設定するのに非常な苦心をしたはずだ。脳のどの部位を使うかは、おそらく重要なポイントだろう。原因物質プリオンの量が脳に十分多い検査個体なら、その違う部位でも問題なかったのかも知れないが、微妙な場合は決定的な誤りに導く。キャリブレーションは、少々複雑な実験をしたことがある理系の人間には常識だと思う。

 国内に「クロ」の牛はいない――その思いこみが「わが国唯一の動物衛生専門研究機関」を、ずさんな対応に終始させたのではないか。何かやっておけば注意義務は果たしたことになる、そんな姿勢が透けて見える。

 「狂牛病等に関する厚生労働省の対応状況について」にある通り、3月19日に「狂牛病等に関するQ&A」は作られ、欧州の事態を教訓に何が起きても大丈夫と見えた。採るべき措置は採られると。しかし、実際に1頭発病したら、対処する前例が存在しないため頼るべきマニュアルもなかった。場面場面で自分の頭で判断しなければならないのに右往左往するばかり。その結果が、病気の「本場」英国でもしていない、30カ月未満の牛の検査までして安全宣伝することになった。

 6月に出されていた肉骨粉の使用禁止ガイドライン「反すう動物用飼料への反すう動物由来タンパク質の混入防止」は飼料製造工場での混入防止に細々と注意を呼びかけている。ところが、発病後、調べたら分かっているだけで全国で8000頭もの牛に農家は肉骨粉を与えていたのである。病気の牛から作った肉骨粉によるプリオン感染サイクルを絶つ最重要戦略も、実際には未完成だった。

 英国の例から病気になるにはほんの微量のプリオンでよい。規制前に輸入された肉骨粉から鶏や豚用飼料を製造する際、牛用に混入したかもしれない。検査してみたら意外に次々と汚染牛が現れるかもしれない。汚染源の謎解きが済まないと消費者に本当の安心は取り戻せない。 (了)

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