食糧庁廃止・新コメ政策の無展望(20030723)

 戦後農政の中核的存在だった食糧庁が6月30日に廃止された。翌7月1日に内閣府で発足した食品安全委員会とバーターで、職員9600人の食糧庁を潰し、職員は配置転換や業務民間移管で吸収する。コメをめぐる統制が事実上崩壊している現状で、食糧庁が何ほどの機能も果たしていないことは明白だった。しかし、今回の変革も行革上の数字合わせから発している印象が強く、改正食糧法で計画流通制度がなくなった先に、どんな農村の姿があるのか、見えてこない。毎年3000億円にも達するコメ生産調整への財政負担に、国が耐えられなくなっただけだ。日本をどんな国にするのか、ビジョンを示すことなく行財政改革だけが進む小泉改革の典型が、ここにもある。

 米価下落で大規模農家は走り出していた

 新しいコメ政策は「米政策改革大綱」として昨年末に公表された。生産調整、即ち減反の配分を2008年度までに廃止し、農業者、あるいは農業者団体が自主的に調整することが柱。農水省の「米づくりのあるべき姿に向けて」に図解がある。しかし、「2010年までに21世紀の食料供給体制を築き上げる」というスローガンを額面通り受け取る人は希だろう。

 農林中央総合研究所による「計画外米の流通からみえるもの」は計画外米の流通が拡大し続ける現状の分析だ。90年代後半から米の卸売価格が下がり続け、それが5年間で10%を超える事態の中で、大規模農家が全農の集荷体制から離脱し始めたことを説いている。

 「大規模な設備投資を行った稲作経営にあっては、長期資金の償還計画に狂いが生じつつあり、それが運転資金の利用や資金繰りに影響を与えている」

 対処法には大規模経営をさらに拡大する方向もあるが、新たな資金借り入れは簡単でないし、コメ倉庫の新たな大量確保や販売の大規模化も難しい。

 そして選択される道は「稲作経営安定対策による下落時の価格補填の道は閉ざされるリスクを伴っても、積極的に生産調整政策から離脱し、全面作付と計画外販売によって一定規模以上の売上を確保し、返済に対応する方法である」

 コメの価格低下に専業の大規模農家は耐えられなくなっている。全体の4分の3を占める兼業農家が、先祖からの田を守るために半ば趣味的にコメを作っているのに対して、専業農家は生きていく手段としてコメを作る。この連載「コメ豊作と無策農政で専業農家は壊滅へ」で描いた事態が現実になろうとしている。地縁的な遠慮をする余裕すら、専業農家にはなくなっているのだろう。

 それなのに来年度からの「当面の」生産調整のあり方は、減反で作付け面積を絞っても、作付けした水田での増産が減産効果を打ち消してしまうので数量ベースで生産調整を厳格化しよう――に向かっている。生きるのに必死の増産をしている専業農家には、ついていけない枠組みである。 (次項「想定範囲に担い手は存在しているか」へ)


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