酒類の混沌――ビール・清酒の未来(20040821)
 2003年(平成15年)、清酒が遂に焼酎に追い越された。インターネットのオークションで数万円の値が付く偽物まで現れた芋焼酎ブームに続いて黒糖焼酎ブームまで起き、品不足にうれしい悲鳴の焼酎業界。これにに比べて伝統の清酒業界は毎年6%減の、じり貧一途に見える。酒類の異変はこれだけに止まらず、ビール業界でビールでも発泡酒でもない「第三のビール」が幅を利かせ始めた。そして、酒類は出荷総量で減少に転じることがはっきりしてきた。 お酒の甘さ、深さとは何か考えた

 前書きとは、まるで違う趣向から話を始めたい。酒類ディスカウント店で原料がコーン100%のバーボンを見つけた。値段は千円ほど。店の表示は実は誤りで、バーボンウイスキーはコーンの割合が51%から80%でなければならない。その他原料はライ麦と小麦で造る。スコッチ好きの私は、一方でバーボンの持つ独特の甘さが気になっていた。ライウイスキーの甘さは知っているが、それだけで説明しきれない甘さがバーボンにある。コーンの役割は何だろう。

 コーン100%ウイスキーそのままで、確かに甘さがある。でも単調な甘さだ。手近にあるバーボンを少し足してみる。麦の芳醇さ、濃厚さが加わった瞬間、にわかに深みが出る。逆にバーボンに足して甘さが増すことも確かめた。スコッチにも混ぜたら、甘いというより、けっ飛ばしてくるようなボディ感を覚えた。この感覚も、コーン100%の状態では感じられなかった。

 こんな話をしたのは、少なくともビールやウイスキーといった洋酒の世界では麦の持つ芳醇さは欠くべからざる座標軸だと言いたいからだ。麦芽使用量を減らして酒税ランクを下げた発泡酒といえども麦芽の呪縛から逃れ得なかった。ところが、「第三のビール」はその禁を犯した。赤字だったサッポロビールの経営を劇的に好転させた第三のビール、ドラフトワンは積極的に麦から離れてしまった。

 同社の「ドラフトワン誕生秘話」にこうある。「『麦』はビールの『うまみ』を出す一方で『コク』や『重たい味』の一因にもなります。今回目指すかつてないスッキリ感を追求していくと、『麦』すら使わないという発想もあるのではないかと思いました」

 試行錯誤の末に主原料として、エンドウたんぱくに行き着き、発泡酒より低い税率で「画期的な新価格」に到達した。もう飲まれた方も多いはず。正直なところ、こうまで味が違う物をビールに似せて製品化すると、既に壊れつつある日本の酒文化にさらに追い打ちを掛けることにならないか。

 これに比べて、サントリーが出している第三のビールはビールや発泡酒に麦焼酎を加える手法で、ある意味で穏当だ。清酒に醸造用アルコールを加えるような手法だから、清酒業界で言う「アル添酒」のキレ味が出て当然である。酒税の分類ではリキュール類にして安くし、すっきり味を狙っている。

 大手のアサヒ、キリン両社は直ちに「第三のビール」に参入する意思はないと言っているが、いつまで耐えられるだろうか。この国でのビール類における味の変化は、本物のビールからどんどん離れるばかりであり、私が連載[「ビールになるまい」とし始めた発泡酒]で予言した通りに進んでいる。若い世代を中心にした嗜好に合わせれば、苦味は要らない、コクも不要だ――「古典派」を標榜するビールだって、おかしな味に染まってしまった。ビール業界では守るべき本丸が既に怪しい。

(次項[転落一途に何の手も打てない清酒業界]へ続く)


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