転落一途に何の手も打てない清酒業界

 醸界タイムスホームページの「平成15CY酒類課税出荷数量<国税局分と税関分の合計>」に酒類数量の状況が詳しい。前々年比増減を計算して状況をつかみやすくした。

平成15年酒類課税出荷数量<国税局分と税関分の合計>(数量kl)
     前々年比増減
清酒     -97,627
合成清酒    2,164
焼酎甲類   39,617
焼酎乙類   109,193
みりん    -5,394
ビール   -764,719
果実酒    -10,793
甘味果実酒  -3,209
ウイスキー  -15,547
ブランデー  -3,747
スピリッツ類 19,491
リキュール類 170,217
雑酒     375,537
[合計]   -479,614

 前々年比増減の列をたどってもらうと、何がどう争われているのか見えやすい。増えているものから取り上げよう。芋焼酎など本格焼酎と呼ぶものには乙類が多く、目覚ましい隆盛である。甲類はお金が無い学生時代に北海道で各駅停車の旅をしていて、車窓で昼間から竹輪をかじって飲んでいる地元のおじさん達から勧められた味だ。ちょっとアルコールぽいけど、すっきり度と無条件に意識を無くさせてくれる酔い口は格別。ビールから大市場を奪った発泡酒は雑酒に入り、チューハイの仲間はリキュール類に分類される。スピリッツ類も増えている。カクテルブーム再来とか言われているからか。

 清酒が減った分は10万キロリットルなのに、焼酎が増えた分は15万キロリットルもある。ウイスキーやワインの減少分まで取り込んでいるのは明白だろう。それでも計算は合わない。焼酎には脂肪に化けるような糖類は含まれない。この健康志向が売り物になっている。発泡酒が増えた分ではビールの減少幅の半分しか説明できないので、2003年は冷夏だったとは言え、焼酎は糖類が多いビールの弱みを突いて大きく浸食しているはずだ。

 さて全盛期の30年前に比べ、出荷が半分に落ちてしまった清酒である。しかもどこまで落ちていくのか、底が見えない。恐るべき危機なのだが、醸界タイムスの特集記事「見えるか、清酒復権への道筋」を読んでも、これという歯止めを見つけにくい。各地でみんな一生懸命やっている――それだけでは、どうにもならない現実に早く気付いて欲しい。

 京大の伏木亨さんがかつて、MSNジャーナルに連載されていた「ニッポン食事情咄 第4回:日本酒の運命は離乳食にある」で「日本酒酒造メーカーの最後の奥の手。起死回生の一発。清酒業界、酒蔵が一斉に赤ちゃん用の離乳食を売り出すのだ。それも、純和風、和食の味の離乳食だ。清酒の肴に合う魚の生臭味も隠し味に入れておく」と提案していた。

 低脂肪の和食は日本人の健康を守る砦であり、高脂肪食の誘惑に勝つ鍵は、和風だしの旨さを子どもの時から味覚に刷り込むこと、というのが伏木さんの持論である。和食と絶対の相性を持っている清酒も、消えてもらっては困る存在なのだ。

 「食塩摂取と高血圧の常識を疑う」で「食文化を考えずに栄養だけ論じていいのか」と、和風だしを最も見事に引き立たせる塩分について書いた。清酒が消えていくことは、家庭の食卓から低脂肪の和食が消えていくことと裏表の関係にあると私は思う。

 業界で前々から言われている課題、低アルコール清酒を主力製品にするくらいの意気込みで自己改革しないと、本当にマイナーな酒になってしまおう。月桂冠大倉記念館名誉館長の栗山一秀氏が「日本酒の明日を語る」で「何百もある清酒のうまみ成分の分子は、それぞれがアルコール分子と手をつなぎ、アルコールが中心となって風味のバランスが保たれています。問題は、中心であるアルコール分が少なくなってしまうと、このアルコールに代わって柱となるべきものがいまだに見つからないことです」と語っているように、確かに低アル清酒は難しい。商品が出たと思うと消えている。

 それでも、アルコール度数が20度、25度以上と高い焼酎が成功したのは、薄めても風味や旨さが楽しめるからだ。本格的な低アルコール化に成功しさえすれば、日本酒の吟醸香や甘みは若い女性にも受け入れられるはず。アルコール度数15度と、きついオジサンの酒から脱皮できよう。回復不能な落ち込みになる前に業界全体が本気にならねば。

(了)

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