少子化対策の的は外れるばかり(20021005)

 政府は9月、新しい少子化対策を取りまとめた。「少子化対策プラスワン―少子化対策の一層の充実に関する提案―」である。1月公表の「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」で新傾向が現れた。「従来、少子化の主たる要因であった晩婚化に加え、『夫婦の出生力そのものの低下』という新しい現象が見られ、現状のままでは、少子化は今後一層進展すると予測される」「従来の取組に加え、もう一段の少子化対策(「少子化対策プラスワン」)を講じていく必要がある」とする。しかし、子育て支援へ傾斜していく姿勢ばかりが目立ち、どんどん的を外しているとしか思えない。

 従来説の「晩婚化」は、現在に至っては「非婚化」とはっきり言った方がよい。年齢を経れば、やはり結婚しなければと考える習慣はなくなり、生涯未婚者があまりに多すぎて異例な存在とは感じられなくなった。連載第122回「合計特殊出生率が東京で衝撃の1.00」で試みた未来予測通りならば、現在の10代は3割もが生涯通して結婚しないままかもしれない。これまでの少子化対策は、この非婚化傾向に為す術がなかったと断じて差し支えなかろう。新たに問題になった既婚カップル向けの対策ならば手が出せる――そう官僚たちは考えたのかもしれない。

 新対策「今後の主な取組」の一番手にあがっている「男性を含めた働き方の見直し、多様な働き方の実現」が多分、新対策の目玉なのだろう。「少子化の背景にある『家庭よりも仕事を優先する』というこれまでの働き方を見直し、男性を含めた全ての人が、仕事時間と生活時間のバランスがとれる多様な働き方を選択できるようにする」との考え方に立っている。

 育児休業取得率(男性10% 、女性80% )などの目標設定、地域での支援サービスの推進、果ては「次世代を育む親となるために」「中高生の赤ちゃんとのふれあいの場の拡充」までうたわれている。柔らかムードたくさん。

 しかし、同じ厚生労働省9月発表の「平成15年3月高校・中学新卒者の求人・求職状況(平成14年7月末現在)について」を一瞥しただけで、冷水を浴びせかけられた気分になる。高校新卒者の「求人数は11万5千人で、前年同期に比べ24.0%減少」「求職者数は23万1千人で、前年同期に比べ6.8%減少」であり、求人倍率は前年同期の「0.61」から、「0.50」にまで落ち 込んだのだ。意味するのは、来春の高卒者は半分くらい就職できない現実である。

 子どもが欲しいと考える親たちにして、この現実を目の当たりにしたら安易に子どもをつくろうと思えないのが当然ではないか。

 第122回「合計特殊出生率が東京で衝撃の1.00」で、30代に比べて20代女性の出生に大きなブレーキがかかっていると述べた。そして、20代は結婚にも強いためらいを見せている。大学を出てもフリーターで過ごす人の割合も半端ではなくなった。文部科学省の統計「学校教育総括・就職率」で2000年の大卒者就職率が「55.8%」だった。1991年の「81.3%」から急落する。就職出来ない、あるいは、しない同世代者を多数抱えている雰囲気の中では、20代のためらう動向は極めて当たり前のことなのかも知れない。

 少子化は将来の年金負担の問題などに大きな歪みをもたらす。そう心配するからこその少子化対策なのだが、出口の見えない不況の中では「心配」は親たち、親になるべき若い世代の子どもをつくろうとする気持ちをいっそう萎えさせる。来年、再来年に景気を良くしてくれ、などと安直な希望はしない。この新世紀を日本がどう生きていくのか。大人口を養う、どういう産業構造があり得るのか。流行の言葉で言えばそのビジネスモデルがいつまでも示されない。いや、きちんと議論されているのかすら怪しいから不安が増す。

 目一杯間口を広げた大量生産システムに依存して1億2000万人を維持するモデルが無理ならば、少子化こそ逆に望むところではないか。

 例えばの話、1億人規模の立国モデルに早期に転換して、今から為すべき事を重ね、外国人労働者導入もきちんと視野に入れる。そして50年後には現状より、こじんまりしているものの、人口の面でももっと安定した国になっている――と示すことこそ、ここ数年の政府至上命題だと思うが、違うだろうか。(次項へ)


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