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第81回「ネットが変えつつある消費者行動」 (2000/02/24)

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 消費者からの異議申し立てが着々と実を結んでいる。この1月末、生物多様性条約に基づく特別締約国会議(カナダ)で、遺伝子組み換え生物の国際取引を規制する議定書が採択された。組み換え種子を輸入禁止にできる規制であり、消費者の関心が高まっている遺伝子組み換え食品への国内規制に追い風になる。これと並んで、環境ホルモンの疑いがある物質の排除運動も進んでおり、ごみ焼却でダイオキシンに変わる恐れのある塩化ビニル類が追放され始めた。企業が金の力にものを言わせて安全キャンペーンをし、市民の小さな疑問を封じることは出来なくなりつつある。一方で、NTTドコモのインターネットに接続できる携帯電話「iモード」加入者が激増している。パソコンの普及率が低いために立ち後れていたインターネット利用が一気に進んで、携帯電話で消費の現場に情報が送りつけられ、行動を変えてしまう時代が明日に見え出した。

◆技術不信を愚か者扱いした時代は終わった

 遺伝子組み換え食品をこのコラムで最初に扱った、97年夏の第17回「種子・修飾された遺伝子世界」。このころ、消費者の反発は始まったばかりであり、まだ小さな運動だった。厚生省などは「安全性は米国で確認済みであり、取り立てて食品に表示する必要はない」と、非常に楽観的だった。

 その後の動きの中で、田中宇さんの「終わらない遺伝子組み換え食品の安全性論議」が伝えるように、遺伝子組み換えトウモロコシの花粉を食べた蝶の幼虫が死ぬという、99年の米コーネル大報告が最もインパクトを与えた。

 「この報告書が世界的にしられることになったのは、イギリスのマスコミが大きく報道したためだった。イギリスを筆頭に、ヨーロッパ各地で、市民運動も遺伝子組み換えに対する強い反対運動を始めた」

 「イギリスでは、遺伝子組み換え食品を置かないようにする食料品店が増えるなど、遺伝子組み換えに対する懸念が一気に高まった」。EUは組み換え「コーンの安全性を確かめる野外試験を延期する決定を下している。野外試験を実施することによって、ヨーロッパの畑の益虫に思わぬ災難がふりかからないように、という配慮だった」

 田中さんが書いているように安全性論議は続き収束しそうにない。しかし、消費者による技術不信を「非科学的だ」と切り捨てられる状況でなくなったのは確かだ。もともと日常の食に関する事柄について保守的であることは、生き物として、とても正常なことである。新しいものを持ち込んで安全なのだと主張する側には、百パーセント信頼できるデータを示す義務がある。好奇心で食べてみたい人を止めはしないが、多数が懐疑的なのは当然だ。米国内では疑問が出る時期をデータ不足で通り過ぎてしまい、多数の人は遺伝子組み換え食品であることにすら気付かない、不思議な事態になっているという。

 木で鼻をくくったような対応をしていた農水省のホームページに「消費者の部屋」が設けられ、遺伝子組み換え食品の表示基準案などが読める。それだけとっても、かつては考えられないほどの変化である。この表示のありかたについて農水省がインターネットなどで意見を募ったら1万件を超えた。これをとりまとめた概要も紹介されている。

 「環境ホルモン全国市民団体テーブル」による「NO!塩ビキャンペーン」を見ていただければ、国内の市民ネットワークも力をつけてきたと実感されよう。塩ビやおもちゃ、流通など各業界・企業それに行政を相手にした膨大な交渉の記録を見るだけで、不退転の意気込みが感じられる。包んだおにぎりなどを高温で温めると、環境ホルモンと疑われるノニルフェノールが溶け出す業務用塩ビラップがある事実を突きつけたのもこのグループであり、原因になる安定剤の切り替えが進むなど、実績もあがっている。

◆携帯電話が主要なネット端末になる日

 世論調査はマスメディアの専売で、私的な調査は省みられないものだった。ネット上でのアンケート投票などあまり意味はないと考えられていたが、そんな見方も改めなければならないようだ。

 マイボイスコムの3000人以上が参加した「遺伝子組換食品の利用に関する調査」は、「価格が1〜2割高くても、遺伝子組換えのない食品の方を選ぶ」のが6割を占める消費者の実態を示している。私が知っている公的な調査結果とも違和感はないし、このアンケート結果が企業に売られる商品である点も注目される。

 消費者は市場の原理を使ってでも、企業に圧力をかけられる。いや、それが一番強い運動になる。環境ホルモンと疑われる物質が溶け出すカップ麺の容器が、どんどん紙製に置き換えられ、それをしなかった大手メーカーの売上が落ちたのが好例である。『買ってはいけない』ではないが、「あれは危ない」「これは良い」といった情報が大量に出回って、企業を振り回す時代になるのは確実だろう。

 そのメディアがインターネットであると思ってきたが、パソコンの扱いにくさと普及の遅さに疑問も感じていた。

 2月22日にサービス開始から1年になるiモードは、420万人の加入者を獲得した。NTTドコモは夏から携帯電話にiモードを標準で搭載する意向で、年内に1000万人の利用者を狙っている。連載第26回「移動電話は規制緩和の鏡」(97/11/06)で、「ごく近い将来に5000万、6000万にも達すると言われる移動電話が、個人的なおしゃべりだけで消費されるとは思えない」と書いた。今その時が来ようとしている。

 平成11年版の通信白書に「コラム3 情報通信の日米比較」と題した項目がある。いろいろな情報の指標をグラフにして並べて、興味深い。携帯・自動車電話の個人普及率は日本の33.9%に対して、米国の20.4%。逆にインターネットの世帯普及率は米国の37%に対して、日本の11%。これを見ても、パソコンよりも携帯電話の方がこの国の人には向いているようである。

 野村総合研究所が99年10月時点で「情報通信利用者動向の調査」をした結果が公表されている。その中の「図表1携帯電話・PHSを利用していない人の方が少数派」は、ここまで来たかと思わせる。

 携帯の利用率は20代の男女では8割に迫り、30代の男性も同水準だ。30代、40代の女性でも利用が急増して5割前後になっている。携帯電話を持ちたいとの意向は各世代で強くて、将来は全体で7割くらいの人が利用するとみられる。インターネットを使っていない層に、標準搭載で利用可能になれば、本人にとってはもちろん、マーケットとして狙う側からも大きく事情が変わる。

 ところで、携帯電話でのネット利用はどんなものなのだろうか。パソコンを使っているわれわれとはかなり違う。MOBILE NEWSの「用途別『おとく』な情報携帯電話をゲットしよう〜電子メール/文字情報サービスを中心に考える〜」には行き届いた機能比較がある。iモードに対抗して「EZウェブ」など各社共にインターネット接続を進めている。

 使い勝手を見よう。例えばiモードの1画面は、100文字と196文字の2モードがあり、受けられるメールは最大で250文字。長い文章は分割して見てもらうしかなく、やはり長大なものは辛いだろう。一方、ウェブを見て回る際には、ずっと接続しているのではなく、分割してデータを送ってもらい、そのデータ量で払うから1ホームページ当たり10円から40円くらいに収まるという。

 これなら街に出て情報を取る、ちょっと気になるページをさっと見る程度には十分だろう。来年からスタートする次世代の携帯電話には、画像も音声も取り込める計画だが、当面はこれで足りよう。問題は、有用な情報を得られるガイドだが、Yahooのような存在が自ずと現れるだろう。誰が統制しているのでもなく、自主的に同時多発に進んでいくのがインターネットの常である。現在、パソコンによるインターネット人口は2000万人に迫るところ。来年にもゲーム機経由を含めた非パソコン系と、多数派が入れ替わってしまい、質的にも大きな様変わりに至るのではないか。



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