団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第119回「京都議定書を批准しても対策は幻」 (2002/05/30)

 5月21日、衆議院で地球温暖化防止のための京都議定書批准案が承認された。参議院に優先するため、これで日本は議定書批准となる。秋に審議を予定しているロシアは批准の方針であり、そうなれば、欧州各国が批准を済ませているため議定書発効に必要な二酸化炭素排出割合55%枠を超える。米・ブッシュ政権が昨春、議定書の枠組みから離脱を表明して以来、不透明になっていた「発効」が見えてきたのだが、日本国内の具体的な対策に目を向けるとこれは幻想・画餅のレベルだろう。1990年を基準年として二酸化炭素など対象ガスを第1期2008年〜2012年に6%減らす約束なのに、エネルギー起源の二酸化炭素は、原発の発電量を3割増やすなど非現実的な設定をして2010年を1990年並に抑えるのがやっとなのだ。森林による吸収の水増しなどの「手品」で当座をしのいでいるだけである。  


◆計画されていることを読みとると

 まず、外務省による「京都議定書の骨子」で内容を確認していただこう。主要各国の削減率はこうなっている。

 
  日本    −6%  
  米国    −7%
  EU     −8%
  カナダ   −6%
  ロシア    0%
  豪州    +8% 
  NZ      0%
  ノルウェー +1%
 

 これに加えて「排出量取引」を認め、目標達成して余裕がある国は未達成国に排出権を売ることが出来る。ロシアが前向きなのは「0%の厚遇」に加えて、その余分な排出権が大量に(?)売れる見込みだからだ。一方、こうした先進国が全体で5.2%の削減をするのに対して、途上国には排出規制の網は掛けられていない。努力規定があるだけだ。

 日本政府は3月に「地球温暖化対策推進大綱」を決定している。その概要とPDF形式の「エネルギー起源のCO2排出抑制対策」で概略が見える。

 当然のことながら堂々「−6%」がうたわれていると思って読むと違う。

 実は99年時点で既に90年よりも7%程度も排出量が増えている。エネルギー起源の二酸化炭素は今回、新たな対策を投入しても90年並にするのがせいぜい。「概要」で産業部門の省エネの先頭に「自主行動計画の着実な実施とフォローアップ」が掲げられているように、ひたすら自主的にお願いしているだけ。原発の空想的な大増設以外にも、新エネルギーの導入でも実効のあがる仕組みが構築されているとは見えない。

 この結果、削減の主役は他の分野に移る。「非エネルギー起源二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素」が−0.5%分、「革新的技術開発及び国民各界各層の更なる地球温暖化防止活動の推進」が−2.0%分、「吸収量の確保」が−3.9%分をそれぞれ担うことになっている。

 詳しくは「大綱」の本文を見ていただくことになるが、革新的技術開発などは、おもちゃ箱をひっくり返したように様々な項目が並んでいる。どこに向かって引っ張っていこうか、とても決められないけれど、取りあえずリストアップしました、というところだろう。どうして−2.0%分にもなるのか、私には分からない。

 空想の所産と言えば、−3.9%分の森林などによる吸収量の確保の方が、もっとひどいかもしれない。森林の面積はほとんど変わらないのに、管理をよくすることで、その総蓄積量は現行対策の3,930百万立方メートルから4,410百万立方メートルにも増やす。私の連載でも第48回「残したい森林資源どう守る」で描いた通り、この国の森を守る人的資源と組織はとっくに崩壊している。本当に森林蓄積を本格化するなら、大幅に仕組みを変えねばならない。少々のお金を入れたくらいでは無理だ。それだけの覚悟は読みとれない。

 歯切れが悪いことこの上なしなので、こんな資料を紹介しよう。環境省の「温室効果ガス削減技術シナリオ策定調査検討会報告書」で検討されている推定が全体を見通していて良い。

 その中の「温室効果ガス削減技術シナリオ策定調査検討会報告書概要」は「2010年の排出量は、基準年の排出量に比べれば、プラス5%(ケース:原子力発電所が新たに13基設置された場合)からプラス8%(ケース:同じく7基設置された場合)の増加となる」とし、追加対策による効果を加味すると削減幅は「ケース1でマイナス4%からマイナス13%、ケース2でマイナス1%からマイナス10%」とみている。

 現実はケース2よりも悪いはずであり、結局、不足分は排出権取引でロシアなどから買ってくると決めているようなものだ。それも、このまま無策に近い状態で時を送るなら膨大な買い取りが必要になろう。  


◆諸外国の事情、そして議定書離脱の米国は

 海外はどうしているのか。

 「英国はどのようにして20%の排出削減を達成するのか?」は「2010年までに電力の少なくとも10%を風力、波力、水力など再生可能なエネルギー源からつくる」とまず述べる。現状の4倍増にもなるこの計画は「画期的なGCTS(Green Certificate Trading System)の活用によって達成される事になります。このシステムは化石燃料からエネルギーをつくっている企業が風力など再生可能エネルギー企業から'グリーン証明書'を購入しなくてはならないというものです」

 英国は近年、天然ガスの生産が盛んで二酸化炭素を大量に排出する石炭火力発電から転換、おかげで既に1990年水準以下の排出量になっている。これに加えての対策だが、再生可能エネルギー利用に意欲が読みとれる。

 実はEU、特にドイツには英国と同様な好条件が最初から埋め込まれている。90年という基準年は東ドイツとの統合がなり、出発時点で旧式設備で大量排出していた東の分を取り込めるのだ。EU全体として計算することにもなっていて、効率が悪かった東欧諸国が参加することでも基準年のベースが膨らむ。よく言われるたとえだが、絞れば絞れる濡れ雑巾状態になっている。

 そして、ロシア、ウクライナなど旧ソ連諸国は経済停滞により98年の排出が90年に比べて4割減っていた。こちらは余裕という言葉を超えている。

 阪大社会経済研究所の西條辰義教授による「京都議定書と欧日米の地球環境戦略」はこうした事情を説明し、京都議定書の問題点を次のように指摘する。

 「日本は乾きかかった濡れ雑巾であり,絞る余地がほとんどない.技術革新や人々の生活態度が変わらない限り,議定書の目標の達成すら定かでない.米国は水を十分に含んだ濡れ雑巾だが,米国流の生活態度や国益を盾に絞るつもりがあまりない.このような状況のなかで欧米日がほぼ似通った削減率を持ってしまった」

 議定書を離脱し、米国流の「削減策」を堂々と提案したブッシュは正直な人らしい。ニューズウィーク日本版「京都議定書は偽善だらけだ」は、こうした米国の立場の正当性を主張している。いわく「米エネルギー情報局(EIA)によれば、温暖化ガスの代表格である二酸化炭素の全世界の排出量は、90年時点で58億トン。このままでは2010年までに78億トンに達するが、議定書の削減目標はそれを73億トンに抑えるにすぎない。途上国の増加分が先進国の削減分を上回ってしまうのだ」

 「議定書の目標を達成しようとすれば、アメリカはかなりの経済的コストを強いられるというブッシュの主張も正しい。好況で排出量は90年レベルをはるかに上回っているため、目標を達成するには今後30%以上の削減が必要だ。EIAはクリントン政権当時、議定書に従うことで電気料金が86%、ガソリン代は53%値上がりするだろうと予測した」

 気候ネットワークによる分析「米国の気候変動政策提案について」はあまりにも自分に正直な米国提案の中身をこう評している。

 「米国は今後10年で、温室効果ガスの排出量を現在から更に12%程度増加させることができる。これは、2012年には1990年比で30%増を容認するもの(京都議定書の第1約束期間平均で27%増)で、京都議定書の目標と比較して34%増の目標となる」。一人当たりの温室効果ガス排出量も今後増加し続けることも認めていて、途上国平均と米国とで既に10倍の開きがある格差は拡大、不公平はさらに進むことになる。

 目をもう一度、国内に転じる。先日、環境省が公表したばかりの国民、事業者、自治体アンケートによると「国民の環境問題への関心は、『地球温暖化』(76.2%)、『オゾン層の破壊』(60.4%)といった地球規模での環境問題や『不法投棄』(54.0%)などの廃棄物問題について高い」という。

 その割にはきちんとした事情が伝わっていないと感じられるのは、問題が複雑すぎるからか、あるいは、このような困難な状況下で議定書の目標を達成する、本当に強力な政策を実行できる政権が出来ないためか。もしも排出権大量買い取りに逃げ込むのでなければ、様々な規制が加わり、制度が変わり、経済活動はもちろん個人生活まで相当揺さぶられる事態が来ると思っていた方がよいだろう。大きなポテンシャルが期待される新しい技術の話では、家庭用燃料電池と燃料電池自動車が欠かせないだろうが、これは別に稿を改めて取り上げたい。



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